細菌性腟症と診断された1ヵ月後はどうなった?

8月6日の記事で紹介した「婦人科で治療後におりものと臭いが気になるようになった」方からの情報が届きました。
前回は生理が終わって間もなく採取しましたが、今回は生理の直前に採取して頂けました。
生理後は腟内を血液で洗い流した後ですので、乳酸菌は少ない可能性があるので今回は乳酸菌が最も多くなる生理直前に検査して頂きました。
それでは早速前回と比較してみましょう。

先ずは前回の写真をもう一度見てみましょう

先ずは、弱拡大で全体を見てみましょう。
標本背景に白血球の増加(腟炎)はなく、一見とてもきれいな腟内の様に思います。
しかし、赤の矢印の先には細胞の上に腟ガルドネラ菌が群がるクルーセルが見られます。

生理直前の細胞像で治療はしていません。

前回に比べ、白血球が多くなり、若干腟炎の様相を示しています。
また、クルーセルは見られますが、前回ほど腟ガルドネラ菌の群がり方が弱いようです。

拡大を上げた前回の写真です。

赤の太い矢印の先には紫色に染まる腟ガルドネラ菌が細胞にびっちり群がっています。
菌にとっての栄養源(グリコーゲン)の豊富な細胞に集まっているのでしょうか?
赤の細い矢印の先の様に細胞の周りにも腟ガルドネラ菌の集まりが見られます。
黄色の矢印の先にあるのが白血球ですが、典型的な細菌性腟症では増えません。

拡大を上げた今回の写真です。

一見して前回の生理直後に比べ、白血球が多くなり、腟ガルドネラ菌がクルーセルに集簇するだけでなく前面に広がっている感じに見られます。2枚とも細菌性腟症が疑われる所見に違いはありませんが、細胞像的にはかなり異なっています。白血球が増えていることも要因の一つかもしれませんが、今回の月経前採取例は黄体ホルモン優位な時期なのでホルモン環境の違いによる可能性も考えられます。

これは前回の単染色による腟ガルドネラ菌です

細胞の中に無数の菌が存在し、クルーセルの形態をとっています。

これは今回の単染色の所見です

この写真でも、クルーセルの形態を採るものより、標本全面に腟ガルドネラ菌が散らばっている様子が分かります。細胞融解によって栄養源(糖分)が膣全体に分散されたことによる変化なのでしょうか?

提供者はこれから細菌性腟症と対峙するようです

https://ja.thpanorama.com/articles/biologa/gardnerella-vaginalis-caractersticas-morfologa-ciclo-de-vida-contagio.html

細菌性腟症の原因についてネットで検索すると極めてたくさん出てきますが、今回情報を提供してくれた方は子宮頸部高度異形成のレーザー蒸散術後に症状が現れたとのことですので、抗生物質投与による正常細菌叢の乱れがそのまま継続している可能性が考えられます。また最近の電話相談でも、クラミジアの治療後にこれまで経験したことがないおりものの異常と異臭に悩まされている方がいます。

細菌性腟症の主な原因菌は腟ガルドネラ菌Gardnerella vaginalis です。この菌は腟内フローラの一員でもありますが、乳酸菌に対しては“ビルレント(敵対的)になることができて”増殖を抑制し、自らが腟内を支配することができることがあるようです。
健康な膣内は、乳酸菌の増殖により腟内の酸度はpH3.5程の強い酸性域にあるため、他の細菌が増殖できない環境を維持しています(膣の自浄作用)が、腟ガルドネラ菌等の嫌気性菌に支配されると腟内酸度が低下し、典型的な症状として灰白色のオリモノの増加と異臭(プトレシンやカダベリンの生成)を伴うようになります。※プトレシンはアミンの一種で腐肉の臭い成分で死臭の一因とも言われています。
そのような異臭の程度は様々で、ほとんど気にならない方から、電車で隣の席にいても分かるくらいまでさまざまです。時にはパートナーに不快感を与えてしまう事もありますので、ひどくなってしまったら治療の対象になるようです。

私自身はこれまで性行為で感染するものではないと考えていますが、私の友人の婦人科医は性感染症の位置づけで、治療しても夫婦間交渉ですぐ再発しまうといいます。

従って、治療に際しては、単にフラジールの1週間投与だけでなく、性感染症も考慮して生活環境も踏まえた入念な対策が必要かも知れません。

期間限定HPV検査グレードアップキット販売開始
子宮頸がん検診受診率向上キャンペーン

2024年7月8日のブログで紹介したように、HPV検査用自己採取器具セルソフトの完成を記念して既存のHPV検査(ハイリスクHPVタイピングなし)KIT003を期間限定で検査内容をグレードアップして販売を開始しました。
エヴァリンブラシを用いた自己採取法によるHPV検査は、検体を乾燥した状態で検査機関に送られますので、HPV検査だけしか検査できません。結果は、ハイリスク型HPVの感染が「陰性」または「陽性」で報告されます。機種によっては、16型、18型、その他の感染があるかどうかで報告されるものもあります。いずれにしても「陽性」の場合は再度医療機関を受診して細胞診検査を受けることが条件になっています。

アイラボでは自己採取検査キットの場合、全て検体の適否判定を実施していますので、HPV検査前にパパニコロウ標本を作製し、顕微鏡的に腟内の状況を観察してちゃんと細胞が採取されているかを確認しています。その際、白血球が増えているかどうか(腟炎はないか?)、異型細胞はないか?、カンジダやトリコモナスなどの感染症はないか?、更に腟内フローラの状況やホルモンの状態も観察します。そして、私達の経験をもとに、追加検査が必要と思われた時は、細胞診検査やおりもの検査、さらに腟内フローラチェックを勧めることもあります。細胞診とはそれだけの価値がある検査ですので、得られた情報を受診者にフィードバックする意義はとても大きいと考えています。
追加検査を実施するかどうかはあくまで本人の希望によって行われます。残った検体で検査しますので再採取の必要がなので通常価格より1,000円引きになっています。

HPV検査の結果は、16型の感染があるかどうか、18型の感染があるかどうか、それ以外の31,33,35,45,52,58,39,51,56,59,68のいずれかの感染があるかどうかで報告します。(通常のHPV検査の報告と同じです)

HPV検査で「陽性」の場合、必ず、婦人科を受診して細胞診検査を受けることになります
この度の期間限定グレードアップキャンペーンは、HPV検査で陽性になった場合、即細胞診検査を実施し、HPV検査の結果と同時に報告するサービスです。
「陽性の場合、病院を受診して細胞診検査を受けることななっているのだから必要ないのではないか」との意見もあると思いますが、先ずは現状を速やかに報告し、同時に婦人科を受診して細胞診検査を受けることのことの意義をはっきり伝える試みです。

子宮頸がん検診は『自己採取でも受けられますよ』と

細胞診検査単独法に加え、HPV検査単独法が子宮頸がん検診ガイドラインで推奨グレードAになりました。原則医師採取とはなっていますが、WHOや米国FDAも自己採取を許可したことから、子宮頸がん検診の受診率を上げるために一歩前進といった感じです。市町村や企業健診においても準備が整ったところから医師採取が苦手な方、仕事や子育てで検診に行く時間が取れない方、交通の不便な地域にお住まいの方にも『自己採取でも受けられますよ』とか『自宅で採取できますよ』などと声をかけられるようになりました。

HPV検査は医師採取と自己採取で検査精度は変わりません

HPV検査は、子宮頸がんの原因となるハイリスク型HPVの感染があるかどうかを調べる検査ですので、そもそも子宮頸がん検診という言葉は当てはまりません。あえて言うなら、HPV検診の方が分かりやすいのではないかと思います。HPV検診で陽性になった人は子宮頸がんの危険性があるので定期的に子宮頸がん(細胞診)検査を受けましょうというものです。
HPV検査はウイルスが100個ほどあれば(感染した細胞が1個でもあれば)検出できますので、医師が採取しても自己採取でも大きな差はありません。この前のブログでもそのことは説明していますので安心して受けて頂けます。

HPV検査で陽性になった人は“即”細胞診検査を行います

HPV検査が陽性の人は細胞診検査を受けることになります。
これも前のブログで詳しく説明しましたが、HPV検査で陽性であっても、“現状はどうなのかについては全く分からないからです。”つまり、異型細胞が全く見られない段階(NILM)なのか?、明らかなHPVに感染した細胞がみられる段階(LSIL)なのか?、さらに異型の強い細胞がみられる前がん状態(HSIL)なのか? 全く分からないからです。

この度のキャンペーンは、HPV検査陽性の場合、HPV検査に使用した検体で“即”細胞診検査を実施して同時に報告します。

対象の検査キットは

個人の方はもとより、自治体の検診や企業健診さらに健康保険組合様においても

受診率向上を目指し、
これまでの検診(細胞診)に加え、子宮頸がん検診ガイドライン推奨ランクAの
(自己採取型)HPV検査
をご検討頂ければ幸いです。

婦人科で治療後におりものや臭いが気になるようになった

高度扁平上皮内病変(high-grade squamous intraepithelial lesion:HSIL)で円錐切除術レーザー蒸散術で治療した患者さんがその後の細胞診検査で、細菌性腟症が疑われるケースをよく経験します。2年程前に、私の友人もCIN3で子宮頸部レーザー蒸散術を受けました。その後今まで経験したことがない程のオリモノが増え、臭いも気になるとのことで、自己採取(セルソフト)法により細胞診検査とHPV検査を受けました。
幸いなことに異型細胞は観察されず、ハイリスク型HPVも検出されませんでした。
しかし、その時の細胞像を見てみましょう。

典型的な細菌性腟症を疑う所見です

先ずは、弱拡大で全体を見てみましょう。
標本背景に白血球の増加(腟炎)はなく、一見とてもきれいな腟内の様に思います。
しかし、赤の矢印の先には細胞の上に腟ガルドネラ菌が群がるクルーセルが見られます。
拡大を上げた写真です。
赤の太い矢印の先には紫色に染まる腟ガルドネラ菌が細胞にびっちり群がっています。
菌にとっての栄養源(グリコーゲン)の豊富な細胞に集まっているのでしょうか?
赤の細い矢印の先の様に細胞の周りにも腟ガルドネラ菌の集まりが見られます。
黄色の矢印の先にあるのが白血球ですが、典型的な細菌性腟症では増えません。
これはグラム染色で腟ガルドネラ菌を染めた写真です。
緑の矢印で示した先には、赤く染まる腟ガルドネラ菌が塊で見られます。
これもグラム染色で染めた腟ガルドネラ菌で、1000倍に拡大した写真です。
本来はグラム陰性(赤く染まる)菌ですが、このように赤みが弱かったり、
青っぽく染まることもあります。
こちらは単染色という方法で染めた標本ですが、
細胞の中に無数の菌が存在し、クルーセルの形態をとっています。
スマホでの撮影ですので、見難くてすみません。

いろいろな染色を紹介しましたが、最初の2枚の写真の様に子宮頸がん検診に使われるパパニコロウ標本でもきれいに観察できますね。

同じ症状で悩む人のために友人が情報も寄せてくれました

そのまま紹介します。
【術前】
・元々おりものは生理の前後にありましたが、おりものシートを付けたことはありません。
・おりものが出て気になったのは月に数回のイメージで気にも留めていませんでした。
2021年9月21日手術(以前伺った話によりますと、高度異形成と診断され、子宮頸部レーザー蒸散術を受けたと聞いています。)

【術後】
1ヶ月間は出血が続きました。もともと生理の時の出血は多い方ですが、出血が多い日が続く感じで貧血気味になりました
・術後特に意識はしていなかったのですが、(今思うと)人生初めておりものシートを購入し、ここ2年はおりものシートが手放せなくなっています。生活のリズムやスタイルは特に変化はありませんし、どちらかというと術前の方がストレスフルな生活をしていたり、パートナーとの性交渉も多かったにもかかわらず、おりものの症状は今ほど気にならなかったので、治療により腟内の環境が変わったのかな?、、、と思います
・オリモノの性状は術前は白っぽかった気がしますが臭いは特に気にするほどではありません。現在は水っぽい感じで量が多く、臭いも気になります。卵スープみたいにうっすら色がついていました

おりものの変化を感じても後廻しにしていませんか?

おりものは健康な人にも見られるものです。
教科書的には、「排卵の頃、無色透明で、臭いもない」おりものが出ることは正常であり、排卵の目印にもなるようです。
白く濁ったり(カンジダ)、黄色味を帯びたり(腟炎がある時)、褐色調(古い出血)に見えたりすることもありますので、
日頃から自身の健康を管理する上で観察する習慣を身につけることも大切かも知れません。

おりものの性状については他の人と比較することもできませんので、「いつもと違う」「なんとなく変」と思ったらそのままにしないで検査だけでもしておきましょう。

私の推奨
◆性感染症(性病)の心配もある。
「おりもの&臭いの検査」
◆オーラルセックスも同時にあった。
「腟と咽頭のSTDチェック」
◆性感染症(性病)の心配はないけどおりものが気になる
「腟内フローラチェック」

乳酸菌は大量の抗生物質の使用で死滅し、復活できていないのか?

はじめに述べましたように、婦人科の先生から依頼される細胞診検査の中には、円錐切除術やレーザー蒸散術後のフォローアップ検査(異常な細胞が消滅しているか?再発していないか?を定期的にチェックすること)の中に今回紹介した細菌性腟症を疑うケースが少なくありません。アイラボではその事実を先生方に報告しますが、検査会社の中には細菌性腟症が疑われてもそのことを報告しない施設も多いようです。
せっかく婦人科を受診しているのですから、女性のそんな悩みにも目を向けていただけたらと思いますが、現実は決してそうではないようです。
病院を受診しても先生には何も言われなかったので、自分の今の症状は異常ではないと思い込んでいる人も少なくありません(無料電話相談より)。
この友達はレーザー蒸散術を受けましたが、医師は術後に異型細胞があるかどうか? 再発は大丈夫か?という点に力点を置いていますが、生活の質の回復にも同じような配慮があって欲しいものです。

この友人は自身で生活の質の向上にチャレンジするようですが、その歩みについても報告頂けるようです。
同様の悩みを抱える皆さんはお気軽にアイラボの無料相談をご利用ください

セルソフトに関する研究で分かった事
(風俗利用男性必見!)

このブログでは、最近学術論文として掲載されたセルソフトに関する研究結果を
一般の人にも分かりやすくTable(表) 1について説明します。
表全体を一枚の画像にしましたので見にくいかも知れませんが、拡張機能を利用するか、必要に応じて印刷して見て頂ければと思います。
赤の下線で示したように、風俗営業従事者30名を取り出しています。

この研究の主な目的は、エヴァリンブラシとセルソフトの比較です

表左側の青枠で示したのはセルソフト(CS)写真中、右の緑色の枠で示したのがエヴァリンブラシ(EB)写真上で高感度多種HPV検出法(uniplex E6/E7PCRで検出されたHPVの結果です。
両器具の写真を見ても分かるように、CSはより奥(子宮の入り口)からスポンジで大量の細胞が採取され、EBはより手前の腟壁成分をからめとるように採取しますので、先ずはEBで採取した後にCSで採取しました。
結果は
1)CS/EBとも全く同じ結果であった。21例(70%)
2)CS/EBともHPVを検出したがEBの方が多かった。7例(23.4%)
3)CS/EBともHPVを検出したがCSの方が多かった。1例(3.3%)
4)CSは検出したがEBは陰性であった。1例(3.3%)
総合的に判断すると、29例(96.7%)が陽性または陰性で一致したことになり、乾燥状態で輸送するEBと50%エタノールを添加し湿性状態で輸送するCSで差は見られなかった事になります。
2)の様にEBで検出されたHPVの数が多かったのは、単純に考えればEBが先に採取したからと思われますが、採取器具の長さが短いEBは腟壁感染部位を擦過した可能性も否定できません。3)4)のケースは逆にEBは子宮腟部の感染部位までブラシが届かなかった可能性も考え得られます。

HPV検査陽性の人は必ず細胞診検査を受けなければなりません

HPV検査で陽性であった人はハイリスク(子宮頸がんに危険な)HPVに感染している事になります。しかし、HPVに感染していることは分かっても、現在自分はどのような状況(軽度異形成高度異形成またはがんなのか?)なのかは分かりません。
そのため、陽性であった人は必ず婦人科を受診して細胞診検査を受けることになります。もしも細胞診検査を受けなかった場合、HPV検査で検診を受けた意味が全くなくなってしまうからです。
HPV検査を病院や検診機関で医師採取で行った場合、検査機関で残った検体が保存されていますので、多くの場合再採取無して細胞診検査が受けられると思います。
自己採取EBでHPV検査を受けた場合、(採取した後検体を乾燥させるので)追加で細胞診検査は受けられませんので婦人科を受診することになります。アイラボでは通常の検診が苦手な人にCSによる自己採取法を提供していますので、HPV検査で陽性が判明した人には自動的に細胞診検査を追加する措置をとっています。(現在期間限定でこのキットを販売しています。)

自己採取型細胞診は子宮頸がん検診ガイドラインでは推奨されていませんので、基本的には婦人科の受診が必要になります。従って、アイラボの報告書の中には「今回の細胞診検査の結果でASC-US以上の細胞が見られたケースは、必ず婦人科で精密検査を受けて下さい。細胞診の結果がNILMであった人も子宮の奥に発生する腺がんを早期に発見できないことがあるため、婦人科を受診することをお勧めします。」といった注意点を付記します。

HPV検査で陽性だった21名の細胞診結果は?

30名中21名(70%)がHPV検査で陽性でした(表左に)。対象が風俗営業従事者ですので陽性率が高値を示しています。このことについては後で議論しましょう。
21名中細胞診でNILM(異型細胞がみられない)が13名(62%)、ASC-US(HPV感染があるかどうかわからない)が3名(14%)、LSIL(HPV感染が見られ軽度異形成)が3名(14%)、ASC-H(中等度異形成以上の存在が否定できない)が1名(5%)、HSIL(中等度異形成から上皮内癌の存在が推定される)が1名(5%)という結果でした。

HPVの感染がある人でも62%の人はNILNであって異型細胞が検出されていませんが、今後ずっと異型細胞が出ないという確証はないのです。ですから、年に一度細胞診検査を受けなければなりません。
ASC-US(細胞診の結果をみる限りでは異型は軽度)なので今後追跡検査が必要になります。LSILも同様で定期的に細胞診での追跡検査が必要になります。ASC-HやHSILと診断された場合はコルポ診断や組織検査が必要になります。
ハイリスク型HPVに感染していてもASC-US以上の異型細胞が発見させるのは意外と少ないのです。

しかし、2024年7月8日のブログでも紹介しているように、ASC-USやLSILの細胞が出ているときはNILM/ASC-US/LSILが繰り返されますので病院に行くのが面倒になって定期検査に行くのを忘れてしまう方が少なくありません。
自己採取法でもHSILまで進行すると毎月検査しても異型細胞が検出できるようになりますので、面倒になった時は自己採取法でもよいので継続的に調べることが大切です。また、その場合であっても常に子宮の奥に腺がんができることを忘れず、必ず年に一度は婦人科を受診していただく事が大切になります。
自身の健康は自身が責任をもって守ること、それがセルフメディケーションです。

風俗利用で最も感染しやすいのはHPVなのです

今回の研究は風俗で働く女性に協力をお願いしました。
その理由は、HPV感染者が極めて多いことが分かっているからです。
今回は30名の検査で21名(70%)が陽性であったことがそれを裏付けています。
尖圭コンジローマは同じHPVの感染症ですが、性病(性感染症)に分類されています。それは“イボができた”ことが肉眼的にも確認できるため病気として認定されますが、ハイリスク型HPVは感染していてもイボは作らないし、肉眼で見ただけでは感染部位に何の変化がなく、痛くも痒くもないのです(感染初期にかゆみに気付く人がいますが性交後の小さな傷の修復に伴うかゆみと区別は出来ません)。ですから当人は感染させる病気にかかっていることに全く気付くことはなく、大切なパートナーに容易にうつしてしまいます。うつされた女性も全く症状がないため、検診で異形成があると告げられるまで気が付かないのがこの病気なのです。
私は風俗を否定するものではありませんが、風俗営業従事者は利用者のみならず自身の感染予防の点からHPVワクチンの接種を義務付けて頂きたいものです。また、利用者においても、この事実を重く受け止め、HPVワクチンの接種や感染予防策の徹底を考えて頂きたいものです。

私達アイラボの職員は日本性感染症学会認定士の資格を有しておりますが、このような資格を有する者が風俗の現場で定期検査の実施やHPVワクチンの普及活動に当たれるのも良いのではないかと考えています・

アイラボの無料相談には風俗利用後の男性から切実な悩みが毎日届いています。
ご相談は電話(042-652-0750)でお願いします。

細胞診でホルモンの評価ができるんですか? という友達からの質問

私が20歳の頃、初めて細胞診という言葉を耳にしました。
やがてこの細胞診断学は子宮頸がん検診の検査法として世界中に広がり、多くの女性の命を救ってきました。
その立役者Jeorge N. Papanicolaou先生ですが、写真は先生の生誕100年のお祝いの時参加者に配られたもので、アイラボに飾っています。右は先生が出版したAtlas of Exfoliative Cytologyと題した、細胞診断学のバイブル的著書です。

このパパニコロウ先生は最初からがんを診断するための研究をしていたのではなく、腟の粘膜の細胞を顕微鏡で観察してホルモンとの関係を研究していました。するとある時、今まで見たこともない細胞(多分がん細胞)が顕微鏡下に飛び込んできました。それを見て、腟の細胞を顕微鏡で観察すれば子宮頸がんの診断ができるようになるのではないかと考え、膨大な細胞の絵(当時カラー写真がないので絵師を雇い繊細な細胞の絵を書き残しました。)を載せたのがこの本です。

今回は、このパパニコロウ先生が最初にやっていいた細胞診とホルモンの話をしようと思います。
というのも、私の友達が閉経期を迎える女性の様々な悩みを解決するためのサプリに興味を持っていますので、彼女のお仕事に少しでも役立てばとの思いからです。

先ずは基本的なところを抑えましょう

この図は、結構昔になりますが伊勢原高校の学生さんにお話しした時のものです。
左の端にヒトの皮膚のシェーマを示し、右側に幼児期から閉経後の腟の粘膜を示しています。共に重層扁平上皮といういくつもの細胞が重なって丈夫な上皮になっています。皮膚と腟で異なる点は、腟上皮は角質層(皮膚の一番上にあるオレンジで染まっている部分)がないことです。
最も下の細胞は基底細胞といい剥がれることはありません。その上の細胞は旁基底細胞といいますが、幼児期や閉経して何年か経つとホルモンの影響がないため、腟は萎縮した状態ですので、腟の表面からは旁基底細胞が採取されます
これは60歳女性の腟内から得られた細胞で、丸い細胞が旁基底細胞です。
大半が旁基底細胞ですので、細胞成熟度指数(左:旁基底細胞/中央:中層細胞/右:表層細胞)でホルモンの状態を表すと、
100/0/0になります。
月経が始まった頃から閉経する前の女性は妊娠が可能な時期で、この時期を性成熟期の女性といいます。
腟の上皮はホルモンの影響で中層細胞から表層細胞まで分化(成熟)して厚くなります。
そして、1ヵ月間(月経開始から次の月経直前まで)腟内環境は劇的に変化しています。

性成熟期の女性は卵巣から2つのホルモンが分泌されます

月経がが始まると、脳下垂体というところから卵胞刺激ホルモンFSHが分泌されます。FSHは卵巣にある原子卵胞(卵の元)を刺激して卵が成熟を始めます。卵が成熟するにつれ女性ホルモン(エストロゲン)が増え、排卵の直前で最も多くなります。このエストロゲンは腟の細胞を表層細胞(一番上のピンクの細胞)まで成熟させますので、この時に腟の表面をこすってくると赤い細胞がたくさん採れてきます。そして、粘膜が厚くなることで防御力も増しますので、外部から侵入する細菌などと戦う白血球も必要ないために姿を消し、乳酸菌も増える必要がないので、腟内はとてもきれいになります。余談ですが、排卵直前は性交に備えて腟の粘膜が厚くなり、妊娠に備えてとても清潔になっているんです。神秘的ですね。
さらに神秘が続きます。排卵したことが脳下垂体に伝えられると、今度は脳下垂体から卵巣に向けて黄体形成ホルモンLHが分泌され、黄体ホルモンが徐々に増えてきます。黄体ホルモン(プロゲステロン)が増えてくると腟の粘膜の分化(成熟)は弱まり、表層細胞は剥離して中層細胞が腟の表面に露出します。一皮むけるわけですので抵抗力は下がりますので、中層細胞にはたくさんのグリコーゲンが存在します。乳酸菌はこのグリコーゲンを分解することで腟の酸度を上げ、外部から侵入する細菌の増殖を抑え込んで腟内を守っているのです。乳酸菌の働きも重要ですが、その時期に腟内には乳酸菌の栄養源(グリコーゲン)が豊富に存在することも神秘ですよね。
そしてエストロゲンとプロゲステロンの分泌が無くなると月経が起き、血液で腟内を洗い流しているのです。これも神秘的な現象ですよね。

それでは細胞の変化をみていきましょう

表層細胞の核はこのように濃縮しているのが特徴です。
中層細胞の様に細胞がグリーンに染まっていても核が濃縮していれば表層細胞です。
中層細胞の核はおよそ10ミクロンで、核内は細かな顆粒状に見えます。あまり良い白血球ではありませんが、大きさはほぼ中層細胞の核と同じです。
乳酸菌はこの周囲にいくつか見られますが、大きな菌であるのが特徴です。

旁基底細胞はかなり小型になりますが、実際はこのように劇的に小さくなるのではなく、大きさは段階的ですがおおむね丸い形をしています。
月経開始から8日目の腟表面です。
中層細胞が主体ですが、表層細胞も少し見られます。
細胞成熟度指数0/90/10位でしょうか?
背景にはまだ少し白血球がみられます。
月経開始から15日目の腟表面です。
背景に白血球はなく、すべて表層細胞になっています。
エストロゲン効果が最大になり、細胞成熟度指数0/0/100になります。
妊娠の準備が完了しています。
月経25日目頃です。
プロゲステロンの影響が出てきたので、細胞の成熟は中層細胞までとなります。
この写真で細胞成熟度指数を評価すると0/100/0になります。
月経28日目頃です。
中層細胞は元の形を留めません。たくさんの乳酸菌によって細胞が融解状となりグリコーゲンが放出されるため乳酸菌の繁殖は最高に達します。
乳酸菌が増えることで腟内の酸度が上がるため、侵入してきた他の菌は増えることができません。
酸性度が強い時は、白血球に頼る必要がないため、白血球は少ないです。

こうして腟内はホルモンや白血球、そして乳酸菌によって守られているのです。これを腟の自浄作用といいます。
この環境を守ってあげるのは貴女だけです。

ホルモンと腟内環境が理解できましたか? 本題はここから

性成熟期はFSHやLHそして卵巣からエストロゲンやプロゲステロンが分泌されることで、比較的規則性をもって性周期が繰り返されてきました。
しかし、個人差はありますがおおむね50歳頃閉経を迎えます。生理が止まる事を閉経といいますが、これはある時突然止まるわけでなく、これにも個人差はありますが数年ほどかけて徐々になくなります。この時期を閉経前期といいますが、ホルモン環境がこれまでと異なるためにさまざまな症状が出てきます。
血管の拡張や放熱に伴う症状:ほてり、のぼせ、ホッとフラッシュ
精神症状:イライラ、情緒不安定、気分の落ち込み、身体的症状:めまい、頭痛、肩こり、動悸、月経周期の乱れ、などの症状が現れます。

腟内の状況もホルモンの減少に伴い徐々に変わってきます。

50歳の方で、症状的には閉経前期と思われます。
性成熟期の女性には見られなかった旁基底細胞がみられ、細胞成熟度指数20/55/25となります。
62歳の方の細胞像です。
細胞成熟度指数100/0/0で完全な萎縮像を示しています。
この状態になると、卵巣からのエストロゲンやプロゲステロンの分泌はほとんどなくなります。
従って、腟の粘膜は薄くなり、グリコーゲンの量も乏しくなりますので、乳酸菌の栄養源がなくなるため、腟内の防衛力は極めて乏しくなるため、白血球が増えてきます。
65歳の方の腟内環境です。
前面に白血球がみられ、この方の腟内は膿(うみ)状態と思われます。
ひどい萎縮性腟炎の状態で、かなりつらいのではないかと思います。
ホルモンの分泌がなくなることで腟内のグリコーゲン量も減り、防御機構が弱くなるため、このような状況になってしまう人は少なくありません。ホルモンのありがたを実感頂けましたでしょうか。

ホルモン補充療法とは

ホルモン補充療法は、エストロゲンの分泌が低下した女性にホルモンを補うことで前に述べた様々な更年期症状の改善や予防を目的とした薬物療法ですが、効果はそれだけでなく、若々しさや活力を保つことにもなります。

当然のことながら、腟内も厚くなり赤い表層細胞も見られ、個人差はありますが70歳女性でも細胞成熟度指数0/70/30といったように若さを取り戻します。
アイラボに細胞診検査を依頼される婦人科の先生は細胞成熟度指数を利用して効果をチェックし、定期的に子宮体がんの細胞診検査を実施しています。


貴女のQOL向上のために参考になれば幸いです。

今後子宮頸がん検診はどう変わる?

子宮頸がん検診における最大の課題は受診率を如何に上げるか?、、、です。
特に我が国においては2009年以降受診率50%を目指し、様々な活動が行われてきましたが、未だにこの目標は達成されていません(2022年度国民生活基礎調査43.6%)。
諸外国の受診率をみても、米国(84.5%)、イギリス(78.1%)、ニュージーランド(77.0%)に比べ日本は42.1%と、米国の半数に甘んじています。

細胞診に加えHPV検査が子宮頸がん検診の主役に!

我が国においてもHPV検査が推奨グレードAになったことで、本年4月から対策型検診(自治体の検診)においてもHPV検査の導入を決めた自治体があります。その背景には受診率をあげたいという願いがあります。
細胞診単独法の検体採取は医師に限るになっていますが、HPV検査単独法は原則医師採取になっていますので、自己採取にも少し道が開けました。6月16日の記事でも紹介したように、米国FDAも自己採取を許可しましたので、自己採取解禁の後押しになれば幸いです。

とは言っても、HPV検査単独法には陽性者に対する長期間にわたる追跡や精度管理体制を構築することが絶対条件になっています。先ずはHPV検査陽性者全員が細胞診検査を受けられることが重要になってきます。

普通の検診が苦手な人にも検診の機会を提供したい!

これがアイラボのこだわりです。

大成化工株式会社(大阪 白石保行社長)と共にHPV検査用自己採取器具(セルソフト)の開発を手がけて7年、子宮頸がん細胞診検査用加藤式器具に改良を加えたセルソフトは2024年6月、完成しました。同時にその有効性は学術論文としてAsian Pacific Journal of Cancer Prevention. 2024.25(5).1673-1679に掲載しました。

アイラボは “女性の健康とQOLの向上”を目的に立ち上げた検査会社です。自宅で簡単に採取し、病院での検査と同等の精度を提供できる検査キットの開発に努めてきました。
まさにこの20年、Femtech Laboとして活動してきましたので、セルソフトの完成を記念した特別商品を発表したいと考えました。

その第一の特徴は、セルソフトによる自己採取!

自己採取器具セルソフトの性能は医師採取と変わらない
(APJCP 2024 Vol25 253-259)

この論文では、医師採取と検体採取能力が変わらないとされるエヴァリンブラシ(写真上)で先ず採取した後、セルソフト(写真中)で採取しました。その理由は画像でも理解頂けると思いますが、セルソフトのスポンジ部分はより奥(子宮腟部)から大量の細胞成分が採取採取できるからです。
その結果は両者ほぼ同じ検出率でしたので、間接的ではありますがセルソフトのHPV感染細胞の採取能力は医師採取と変わらないことになります。

第二の特徴は、採取された検体の適否判定と腟内状況のチェック

HPV検査は、ハイリスク型HPVの感染があるかどうかを調べるのが目的の検査ですので陽性または陰性として報告されます。
検査の方法によっては最も危険な16型、次に危険な18型その他(11種)、に分けて報告されます。
前にも述べましたように、自己採取という特殊性から、アイラボでは検体が適正に採取されているかを重要視しており、どんな検査(キット)でも必ずパパニコロウ標本を作製して検体の適否判定を実施しています。適正に採取されていない時は本人に再採取の希望を確認をしたうえで採取器具を無料で再送付しています。
適否判定は写真の様に顕微鏡で観察しますが、この際、腟内の状況も同時に観察できます


しかし、通常の子宮頸がん検診では、「炎症」「トリコモナス」「カンジダ」が見られた時には報告されますが、HPV検査ではこのような標本作製まで行われないため、腟内の状況まで報告されることはありません

私達アイラボは婦人科細胞診(子宮頸がん検診)は最も安価で最も精度の高い婦人科感染症の総合的診断法と位置付けていますので、HPV検査が主役になってもこのサービスは続けてまいります。

第三の特徴は、HPV検査陽性例には即細胞診検査を実施します

ゴルフで日焼けして真っ黒ですね。
77歳になりますがこの暑い中週一でゴルフを楽しんでいます。

HPV検査で陽性になった人は細胞診検査を受けることになりますが、これを受けないと検診を受けた意味が全くなくなります。
くどいようですがHPV検査はハイリスク型HPVの感染があるかどうかを調べる検査であり、陽性となった人の腟内が今どんな状況になっているか分かる検査ではありません。異常な細胞が見られないNILM(ニルム)なのか?前がん病変のHSIL(ハイシル)なのか?全く分からないのです。もし、HSIL(中等度異形成、高度異形成、上皮内癌)で高度異形成以上である場合、今すぐ円錐切除などの処置をしなければなりません。そのため、陽性だった場合は必ず精密検査(細胞診)をすぐに受けなければならないのです。
このスライドは、2011年12月に開催された日本性感染症学会学術集会で当社藪崎宏美が発表した内容の一部です。すべて加藤式による自己採取例で、2008年4月の検査でLSILの細胞が検出され、16型と51型の持続感染例です。翌5月はNILM、9月10月はASC-US、11月にASC-Hの細胞を認め、12月から翌年の1月、3月はNILMでしたが、同時行った遺伝子検査では16型と51型が検出されています。2009年9月の検査でHSILの細胞が検出されましたが、その後も半年ほどはLSIL、ASC-H、ASC-USと不安定な時期が続きますが、2010年4月以降は高度異型細胞が連続して検出されるようになります。
HPVの感染からがんになるまでにはおおむねこのような状況が続きますので、時期によっては異常な細胞が検出されないこともあります。油断は禁物なのです。
2008年11月にASC-H(高度異型扁平上皮内病変の存在が否定できない)と診断した細胞と、2011年6月に採取された細胞はHSIL(高度異型扁平上皮内病変=中等度異形成(CIN2)、高度異形成(CIN3)、上皮内癌が含まれる)と診断しましたが、これらの細胞の顔つきは同じように見えます。
私達は2008年11月に見られた細胞をがんの前駆細胞(将来がんの方に向かう細胞)と考えていますが、2008年12月~2010年2月の間はNILM~HSILの細胞が出たりでなかったりしています。しかし、2010年4月以降は自己採取した検体では毎回AS-H~HSILの細胞がみられるようになります。これはどういうことかというと、がんの性格を持った細胞の集まりが広くなったと考えています。
検診を受けた時がたまたま2008年12月~2010年2月の時期だと、細胞診の結果が最悪NILMになってしまうこともあるという事実、そして、2010年4月以降のように(自己採取でも)安定的に高度異型扁平上皮内病変の存在が疑われる細胞が発見できるという事実を考えると、HPV検査で陽性になったり、細胞診でLSILと判定された場合はかなり長い期間定期的なチェックが大切になることが分かります。
これは別のケースですが、最初の検査からHSILの細胞がみられ、私達は細胞診で高度異形成と診断してフォローアップしたケースです。2008年12月から2009年12月の間、自己採取法で毎回同じ様な細胞が検出されています。このケースも16型が主体ですが、CIN3になると加藤式やセルソフトによる自己採取でも、毎回の検査でHSILの細胞が出続けます
この方はもう何年も前にHPVに感染していたんでしょうね。でも、自己採取であっても細胞診を受けたことで、子宮も命も守れました

HPVの感染からCIN3になるまでにはかなり長い年月が

この表も同じ学会で発表したものですが、ハイリスク型HPVが感染してからNILM~LSILの細胞が見られる時期を(私達は)第一段階と考えています。この時期はおおむね90%がHPV感染は陰性化するといわれています。
ASC-Hが出始め、NILM~HSILの細胞が出たりでなかったりする時期を第二段階、ASC-H以上の細胞がいつでも検出される時期を第三段階と分けることができます。第三段階はHPV感染症の時期は過ぎ、腫瘍の性格を持った細胞に代り(前がん性病変ん)ますが、この時期までに検診で発見できれば子宮を守ることができるのです。

アイラボの自己採取型子宮頸がん検診は貴女と病院との架け橋

2009年以降、通常の検診が苦手な人でも検診が受けられるよう、私達は加藤式採取器具を用いた細胞診検査の精度向上に取り組み、その成果を論文にまとめ報告してきました。しかし、子宮頸がんガイドラインでは自己採取法による細胞診検査は認められることはありませんでした。そこで、加藤式採取器具のさらなる改良に取り組み、前述の通り7年越しでHPV検査用器具として生まれ変わったのがセルソフトです。わが国では(医師採取を原則とする)という条件付きですが、検診の受診率を上げるためには自己採取法の導入は絶対条件になりますので、自治体や企業検診においても、通常検診とは別に自己採取も選択できる仕組みを検討して頂きたいと思います。

HPV検査用採取器具セルソフトに関する論文

この研究はHPV検査における自己採取器具の検体採取能力を確認するために行いました。
比較の対象としたエヴァリンブラシは、HPVの採取能力が医師採取と変わらないとの報告があり、それが世界的に認知され普及しています。セルソフトの強みはHPV検査のみならず、多目的検査に対応できますので、HPV検査においてほぼ同等の結果が得られれば、一度の採取で必要に応じていろいな検査に対応できることです。

HPV検査単独法が子宮頸がん検診に承認されたことで

子宮頸がん検診は、これまで行われてきた細胞診単独法(推奨グレードA、検体は医師採取に限る)に加え、HPV検査単独法も推奨グレードAになり、厚労省からも指針が示され、今年4月1より自治体でも徐々に採用するところが増えてくると思われます。検体採取は原則医師採取とするになっていますが、その理由として我が国においてその有効性が明らかになっていないからとされています。今回の研究で比較の対象としたエヴァリンブラシは自己採取器具で、検体採取能力は医師採取と同等と言われていますが、セルソフトはそれと同等の採取能力が確認されたため、子宮頸がん検診の受診率向上に期待されます。

米国FDA、HPV 検査で自己採取を許可、がん早期発見に一助

情報入手先:日経新聞
内容:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN16E3P0W4A510C2000000/

セルソフトは通常の検診が苦手な人のために開発したデバイスです。
そのような方にも手軽に採取できる器具なので、各自治体でもこれまでの細胞診検査に加え(これまでの検診が苦手な人にも)新しい検診の機会を提供して頂けると我が国の子宮頸がん検診受診率が一気に50%を越し、欧米並み水準も期待できると思います。
日本の未来のために、わが国でも早急に“HPV検査に自己採取を許可”して頂きたいものです。

子宮頸がん検診(HPV検査用)採取器具セルソフト完成!

前回のブログでHPV検査のことを話しましたが、その時に紹介したHPV検査用採取器具セルソフトについて少し詳しく説明します。
もう8年程前になりますが、同じ頃2組の方がアイラボに来られました。
その人達の共通点は、既に世に出回っている加藤採取器具は素晴らしい器具ですが、“外観がごついのでもう少し優しいイメージの器具にできないか?”という点と“自己採取=悪法”のレッテルを一掃できるような器具を作りたいというものでした。
私と加藤式との出会いについては(私の)別のブログ「https://ameblo.jp/yoshio0816/」でも詳細に紹介していますが、もう40年も前のことになります。医師採取検体があまりにひどい(検査にならない)ことが続いた頃、加藤式で採取した標本に出会いました。『素晴らしいの一言』、いつか自分が責任ある立場になったら、加藤式についてじっくり検討してみようと思ったのです。
その当時の写真で、をした標本は不適正としたものです。
当時の加藤式で作製された写真はありませんが、
このように採取器具から直接塗抹標本を作製したものです。
(加藤式標本作製法より抜粋)
これは現在アイラボで作製している細胞診標本です。
このような薄層塗抹標本を作製することで異型細胞の検出率は約2倍になりました。

子宮頸がん検診の受診率を50%まで上げようとしていた時

当時在籍していた八王子高尾ライオンズクラブで講演したスライドがありました。
細胞診でLSIL以上の異型細胞がどれだけ検出されたのかを比較したものです。
先ず、医師採取の代表的な機関として日本対がん協会各支部の平均と八王子市を上げました。医師が採取して直接スライドガラスに塗抹したケースでは1%と0.89%でした。自己採取についてはあまり資料がないのですが、加藤式については名古屋公衆医学研究所と千葉県の某検査機関から得られた加藤式自己採取器具で直接塗抹したものでは0.99%と0.89%と医師採取と大きな相違がないことが分かります。
しかし、平成22年度(2010年)東京都衛生検査所精度管理事業報告書の中で年間5000件以上自己採取検体を扱っている検査会社の検出率をみると、A、B、C社はそれぞれ0.36%、0.44%、0.36%とほぼ同じ成績で自己採取法の検査精度が極めて悪いことが分かります。しかし、D社は0.92%と医師採取や加藤式と同じような成績でしたのでその会社に問い合わせました。その回答は検査の対象は全て風俗営業従事者であり、採取器具はホームスミアでした。ホームスミアについての資料はこれしかありませんし、私自身が採用した経験がないのでコメントを控えさせていただきますが、私共が加藤式を用いて風俗営業従事者の検査を実施した成績(日本性感染症学会2011.12、藪崎宏美発表)では、367名中LSIL32名、ASC-H13名、HSIL6名で、LSIL以上と診断したのは51名13.8%でした。 そして今回、セルソフトを用いた調査(APOCP,volume25(2024)issue5に掲載予定)においても、風俗営業従事者30例中LSIL5名、ASC-H1名、HSIL1名とLSIL以上のケースが7例23.3%でした。LSIL以上の異型細胞の検出率のみで較するとホームスミアに比べ13~23倍になります。
このような作業をしていた頃、自己採取法の実態が分かればと思い、某大手検査会社の営業部門を訪問しました。そこではすでに加藤式に比べホームスミアにおける異型細胞の検出率は1/10以下であることを認識されていたことに衝撃を受けました。

自己採取法のイメージを変えたい! そしてもっと普及させたい!

前に紹介した2つのグループの思いがこんなところにあったのです。
その後、一方のグループは外観や機能が加藤式とは全く異なる試作品を作り意見を求められましたが、それ以降進捗状況などの報告は受けていません。そしてもう一方の会社は安全性が担保されている加藤式の改造に着手していました。外観をやさしくして、機能も向上させ、材質には環境にやさしいバイオマスプラスチックを使用したセルソフトを完成させました。
見た目は加藤式に比べ優しい感じがして、イメージチェンジができたようです。
器具の長さ、挿入部の長さ、スポンジ部分の長さは加藤式と変わりませんが、挿入部が若干細くなっています。
材質を変えたことは軽量化にもつながり、扱いやすくなりました。

関係した皆さんに心より感謝申し上げます

アイラボに最初に見えたのが、吉田興産株式会社吉田勝彦社長でした。子宮頸がん検診の受診率が上がらないわが国において、加藤式自己採取器具の有効性を高く評価した上で、外観も含め女性が安心して使って頂けるものにしたいという思いで大成化工株式会社と株式会社アイ・ラボCyto STD研究所との橋渡し役として粘り強く活動して頂けました。
大成化工株式会社代表取締役社長の白石保行氏も自ら数回当社アイラボに足を運んで頂きました。吉田社長と同様、女性の健康を守るデバイスとして加藤式を高く評価し、加藤式採取器具存続の必要性を熱く訴え、利益度外視でセルソフト開発に望んで頂きました。
心より感謝申し上げ、セルソフトが多くの女性の健康を守るデバイスとして認知され普及することを心よりお祈り申し上げます。
最後になりますが、セルソフト改良に取り組んで頂いた大成化工とアイラボのスタッフの皆さんに感謝申し上げます。また、論文提出に関係した杏林大学保健学部大河戸光章先生、論文筆頭者の藪崎宏美さん、英文担当の椎名奈津子さんに感謝申し上げます。

なお、論文はAsian Pacific Journal of Cancer Prevention, Vol 25の5月号に6月2日に掲載されます。

子宮頸がん検診ガイドライン2019年についての私見

我が国の子宮頸がん検診の受診率は43.6%(2022年)、HPVワクチン接種率は1.9%(2019年)と世界的に見ても最低レベルと言っても過言ではありません。
この背景には、行政の対応のまずさはいうまでもありませんが、対岸の火事的思考(遠くの出来事に無関心であること)や喉元を過ぎれば熱さも忘れるといったことわざがある様に日本人の国民性とも言われています。自分には何の症状もないし、(何の根拠もないのに)自分には子宮頸がんは関係ないと都合よく解釈したり、芸能人が子宮頸がんになったと聞くと慌てて検診を受ける人が増えるが、それも一時的です。
結局のところ、十分な教育がなされていないことが最大の要因かも知れません。
このスライドは、2015年、ライオンズクラブに在籍中、八王子市の市民団体
『有害情報から子供を守る会』主催のシンポジュウムで使用したものです。
その中に下に示す1枚のスライドがありました。
私が20代(50年も前)の頃、千葉大学教育学部養護教諭養成課程の故武田 敏教授の元で性教育を学んでいましたが、その時日本人の国民性という言葉がよく出てきました。このスライドの様に、
日本人の性に関する教育が如何にゆがめられていたかが良く理解できると思います。
私が中学生の頃、“男子は外で遊んでいろ”と言われ、女子だけが暗幕を貼った教室で何やら“男子には聞かせたくない話”がありましたが、まさにそれは月経教育であったのです。性に関することはなるべく内緒にしておく教育が今なお尾を引いている気がします。

私がHPVの研究を始めた今から40年も前のことですが、学会でHPV感染のことを発言すると座長の先生から『子宮頸がんの原因になるHPV感染は性感染症(性病)であるといってはいけない』とよく言われたものです。それはなぜかと問うと、『クラミジアや淋病とは違い、感染している人があまりに多く、症状もないので性感染症と言ってはいけない。』という回答でした。子宮頸がん検診の受診率が上がらない中、HPV感染が性感染症だと言うと、「(何の根拠もなく)私にとって性病は関係ない」という女性が益々検診を受けなくなるのではないかと心配したのかも知れません。

米国に住むある日本人いわく、HPVの感染が子宮頸がんの原因になると聞いた米国人は『私は大丈夫か?と言ってすぐ検査に行く』そうですが、日本人は(何の根拠もなく)「私はHPVには関係ない」と、対岸の火事的思考は欧米の人とは異なりますね。

私はこのブログで、セルフメディケーション(自身の健康は自分で守る)の考えを広めるため、女性特有の病気について様々なケースを紹介し、自身の知識を広めて頂きたいと考えています。
今回は最新の子宮頸がん検診ガイドラインについて勉強したいと思います。

HPV検査単独法が推奨グレードAになった

細胞診単独法HPV検査単独法推奨グレードAに、細胞診・HPV検査併用法推奨グレードCで、細胞診単独法の検体採取は医師採取に限り自己採取は認めないになっていますが、HPV検査単独法と細胞診・HPV検査併用法は、検体は医師採取を原則とするとなっています。その理由は「国内でのエビデンスが不足しており、受診率向上につながるか、精密検査以降のプロセスにつながるかなどのfeasibility研究が必要である。」としています。
HPV検査単独法と細胞診・HPV検査併用法は医師採取を原則とするになっていますので、、これまで医師採取を苦手としていた人や仕事や子育てで忙しい人、わざわざ検診機関まで出向くのが面倒という人にとっては朗報といえます。

自己採取器具エヴァリンブラシとは

エヴァリンブラシは採取後乾燥できるため郵送に適しており、医師が採取した成績と一致しているため(Tranberg et al.,BMC Infecious Diseases,18,1-7,2018. Polman et al.The lancet oncology,20,229-38.2019. Onuma et al. International Jounal of Clinical Oncology,25,1854-60,2020.)、世界中で採用されています。写真上に示すように、ストッパーがついているため、安心して使用できます。挿入部の長さは4cm、細胞採取ブラシの長さは3.3㎝で全長7.3cmの器具です。

前述のように採取後細胞は乾燥状態で検査施設まで運ばれるため、HPV検査のみに使用されます。
輸送しやすいメリットはありますが、陽性と判定された場合は、現状の進行度(NILM、LSIL、HSILなどの)が分からないので、医療機関を受診して必ず細胞診検査を受けることになります。
このルールが守れないと検査の意味が全くなくなります。

下の白い採取器具は加藤式です。子宮頸がん検診用に開発され、細胞診を目的とした自己採取器具としては最も優れた器具と思われます。当社では、医師採取が苦手な方や忙しい方、検診に足を運ぶのが面倒な方に郵送検査として提供しています。
細胞診のみならずHPV検査や淋菌クラミジアなど婦人科領域の検体採取器具として利用できます。

中のピンクの採取器具は加藤式をグレードアップしたもので、大阪の大成メディカル社が主にHPV検査用に開発したものです
加藤式と同様に保存液を添加して検査施設まで輸送しますので、同一検体で細胞診やおりもの検査にも使用できます。
HPV検査で陽性の場合、残りの検体で細胞診の追加検査ができる点が今後に期待されます。

アイラボのHPV検査単独法とは、、、、

我が国の子宮頸がん検診は細胞診単独法で進められてきましたが、受診率向上を目的に自己採取によるHPV検査単独法が自治体や企業検診への導入が期待されます。
そんな中、アイラボの郵送検査の最大の特徴は全ての検体(例えば淋菌やクラミジアの検査でも)についてパパニコロウ標本(細胞診標本)を作製し、検体の適否判定、炎症の有無、感染症や臭い、更にホルモン状態のチェックを簡単に行っています。勿論アイラボのHPV検査単独法による子宮頸がん検診でも、そのようなチェックを行っていますので、是非アイラボのHPV検査をお試しいただければ幸いです。

クラミジア感染に見られる星雲状封入体とは

子宮頸部にクラミジアが感染すると、粘膜の下にリンパ濾胞というリンパ球の集まりがつくられます。
リンパ濾胞が粘膜の表面に露出する状態になると、子宮頸部の細胞診標本には沢山のリンパ球が観察されるようになり、濾胞性頸管炎と診断することが出来ます。このことは2024,4,29日の記事で紹介しました。
今回はクラミジアが感染して細胞の中で増えるとどのように見えるのかという話をしましょう。
クラミジアは黄色の矢印で示したように、細胞の中に吸い込まれるようにして侵入して感染が成立します。そして細胞からエネルギーをもらって分裂を繰り返し、白の矢印で示したように少しずつ大きくなっていき、それらがさらに一緒になって赤の矢印で示すように大きな封入体になります。この大きな封入体はいずれ風船のように膨らみ、最後は割れて中に入っている膨大な数のクラミジアが腟内に放出されます。大きな封入体をよく見ると細かな粒子(基本小体)と大きな粒子(網様構造体)が存在します。私はこの封入体に星雲状封入体と名付けました。
Yoshio Shiina.Cytomorphologic and Immunocytochemical Studies of Chlamydial Infection in Cervical Smears,Acta Cytologica,29:683-691,1985.
この写真は私が初めてクラミジアの封入体を発見した細胞です。白や赤の矢印で示したところにこれまで経験したことがない構造が見えたため、この細胞を写真撮影した後に脱色して酵素抗体法という方法でこのものがクラミジアであることを確認しました。赤の矢印で示す封入体ではより細かな粒子と粗い粒子が観察されます。
酵素抗体法という方法、すごいでしょう!
この方法についてはまた後で紹介しますが、この方法は(非特異的な反応が出るたため)細胞診には不向きな方法と言われていたのですが、実はそんなことはなく、ある処理をすることで極めて信頼性の高い方法であることが分かったので日本臨床細胞学会誌(椎名義雄、川生昭、根本道則、他、細胞診における酵素抗体法応用に関する基礎的研究、日臨細胞誌.21:8-14)に投稿しました。その後多くの研究者がこの方法を用いていろいろなことが分かるようになりました。
クラミジアに感染した細胞に見られる様々な星雲状封入体を図にまとめました。細かい粒子が基本小体(成熟して感染力のあるクラミジア)で、大きな粒子が網様構造体(未熟なクラミジアで感染力はありません)です。
あたかも星雲の様に見えました。
図Aは感染初期、図Bは増殖が進み、図Cは成熟型で基本小体が多い、図Dは網様構造体が多い、図Eは増殖が抑えられた封入体?
図Fのcoccoid  bodyという言葉は故Guputa先生(米国ペンシルバニア大学病院病理))が名付けたことばで、我がアイラボの藪崎宏美が大学の卒業論文でcoccoid bodyは円柱上皮細胞に感染した時に見られる所見であることをやはり酵素抗体法を用いて証明しました。
星雲状封入体や酵素抗体法について分かって頂けましたか?
若き頃、こんな研究に没頭していたころを懐かしく思い出しながら、、、、
1997年、武藤化学株式会社発行の本に掲載しています。
婦人科系感染症や腫瘍に酵素抗体法を応用した内容です。