今年もアイラボの郵送検査による子宮頸がん検診がはじまりました。

今年も自己採取法によるアイラボの子宮頸がん検診がはじまりました。
初入荷は中部地方の某健康保険組合の会員様からの検体です。
真新しい加藤式の改良器具セルソフトが勢ぞろいです。
この健康保険組合様からは、5月中に200名様以上の申し込みが予定されています。
検査方法は「細胞診検査」を希望されています。

採取器具に関する意見をアンケートの形で頂きました

11名中記載された方のご意見をそのまま掲載致します。
■とても簡単でした。
■簡単に使えてとても良かった。
■アソコをみせなくてよいのでよい。
■自分でやれていいと思う。
■簡単にできました。
■簡単でした。
■簡単にできていいです。
(第二便)を以下に示します。
■簡単にできてとてもありがたいです。検査機関へ出向くの時の変な緊張感もなくていいな、なんて。
■(33歳)毎回とてもむずかしい、、、できているのか正直よく分からない。・入れる時に痛い・説明書には「すわりながら」とかいてあるが、イスにすわりながらではできない。人によると思う。
■以前からと同じ方法なので慣れた(椎名が追加:以前は他の検診機関で加藤式を使われていましたので)
■使いやすい。
■今までと同じタイプのやり方(椎名が追加:加藤式の経験者)だったので、スムースにできた。
■自分のタイミングで自分でできるので良い。
■(60歳)閉経後の器具使用で少々痛みあり。
■特にない
■自宅でできてよい
■使いやすかったです。
■問題なくできました。
■器具がピンク色でかわいくなりました。(椎名が追加:以前は加藤式を使っていた方の意見)
■簡単だった。少しだけ痛かった(31歳)
■思ったより怖くなくできた。
■簡単にできてよかった。
■思ったより簡単だった

ご意見を頂きありがとうございました。
おおむね、好意的なご意見を頂きましたので、改良に携わった私としても安堵しています。
器具を製造している大成メディカル株式会社様にもこの結果をお伝え致しました。

別の健康保険組合様は「HPV検査単独法」を採用されました

やはり中部地方の健康保険組合様ですが、5月から11月の間に希望者を募り、HPV検査単独法による郵送検査で子宮頸がん検診を実施されます。今日現在、20名の方の受付が完了しました。健康保険組合様のお考えに沿って、私達ができる最善の検査を提供してまいります。
アイラボは「女性の健康と活躍を支援する検査会社」ですので、恥ずかしい忙しい検査を受けるのが面倒な人達の検診の機会を最大限有効に活用できる検査を提供しています。
それが『最新のHPV検査』です。
その特徴とは
【特徴1】HPV検査前に、顕微鏡で検体の適否判定を実施していますが、その際に観察された腟内状況(腟炎や感染症が疑われる所見が見られた時)を報告書に反映します。これは自己採取器具セルソフトを用いることで可能になったサービスです。
実際の例として、「今回、HPV検査は陰性でしたが、腟内に白血球が増加しています。おりものや臭いが気になる場合、追加検査が可能です。また、心配事がありましたら無料の電話相談をご利用頂けます(042-652-0750)」

【特徴2】HPV検査の結果が陽性の場合、細胞診検査を実施して同時に報告致します。
HPV検査単独法の検診を受け、陽性であった時は必ず細胞診検査(細胞診トリアージ)を受けることになります。でも、細胞診の結果が出るのが怖いなどの理由でこの検査を受けない人がいます。先ずは陽性の結果が出た人が全員(医師採取による)細胞診トリアージを受けるために、現在の状況(NILM,LSIL,HSIL、等)が分かれば精神的にも楽になるものと思い、このサービスも追加することにしました。このサービスが提供できるのも、検体の採取にセルソフトを採用したからにほかなりません。



アイラボのHPV検査単独法による子宮頸がん検診

検体の採取法による検出精度については、エヴァリンブラシとセルソフトについて比較研究を実施し、学術論文に掲載しています(APJCP,2024,25(5),1673-1679)
その中の主要な表をここに示しています。
この研究には、HPV感染率の高い風俗営業従事者30名に協力をお願いしました。
先ずエヴァリンブラシで採取した後、セルソフトで採取しました。ハイリスク型HPVの感染があるかどうかで見ると、エバリンブラシとセルソフトで大きな差がないことが分かります。
エヴァリンブラシは医師採取と同等の採取能力があることが報告されていますので、セルソフトもそれに劣らないことをこの研究で明らかにしています。エヴァリンブラシは採取した後、乾燥状態で検査機関に送られますので、細胞診検査には対応できませんが、セルソフトは検体に保存液が入っているため、細胞診や他の感染症検査にも対応できるのです。
HPV検査で陽性の時はこのような報告になります。
「特徴1」については「腟内に白血球が軽度に増加しています」とし、「特徴2」については細胞診の成績とその画像を示しています。そしてこの報告書を持って婦人科を受診するよう促しています。

細胞診検査は人が顕微鏡で調べる検査、使命感が必須

検体から顕微鏡で観察する標本を作製し、それを顕微鏡で観察し、報告書を作成する全ての工程についてアイラボ内で教育された細胞検査士によってこの検査を実施しています。

アンケートの最後に『心配事があればお書きください。』と入れてありますが、そこに、
「このアンケートのあたたかさに感動しました」と、コメントを頂きました。
今後も、アイラボらしく皆様のお役に立てれば幸いです。


カンジダ症? 細菌性腟症? 悩んだ結果先生はどうしますか?

婦人科の先生方が日常の診療で、
これはカンジダ?、、、細菌性腟症?そんなことよくあると思います。


2022年12月21日の記事
「患者は診断できているのに!」

2023年5月13日の記事
「先生!カンジダではなくBVです」

2023年5月21日の記事
「婦人科医からの細胞診依頼書にBV suspの記載」

2022年12月21日の記事では、
【患者さんは細菌性腟症を疑い婦人科を受診しましたが、先生からカンジダの治療薬が処方されました。
その薬は服用せず、アイラボの郵送検査を受けたら、カンジダではなく細菌性腟症であった事例でした。】
このケースは、患者さんが主治医にアイラボからの結果を見せると、快くフラジールを処方して頂け、
患者さんは大変喜んでいました。

ある細胞診専門医にこの事例をお話すると

『いちいち検査をするのも面倒なんだろうな?
最近(特に)、細胞診報告書に「余分なことは書かないで!」
というクリニックや検診機関があり、
検査機関によっては細菌性腟症は報告書に反映させない所が多いようです。』
そんな言葉が返ってきました。
どうやら、患者や受診者に質問されても担当者が答えられなく、
(面倒!)なのかも知れませんね。

でも婦人科の先生によっては細胞診検査依頼書に

「カンジダ?」
時々こんな記載があります
先生は多分、“カンジダだと思うんだけど???” そんな思いなのかも知れません。
それを見た私達細胞検査士は、
先生がカンジダ症を疑っている以上、標本をくまなく観察します。
カンジダが確認できない時は「カンジダはみれれません」
とコメントします。
しかし、時にはたくさんのクルーセルが見えていることもあります。
「先生!カンジダ症ではなく、細菌性腟症ですよ」
と記載してあげるべきと思いますが、それを記載しないルールの検査機関もあります。
なんとも歯がゆい思いです。

当然のことですが、アイラボでは細菌性腟症が疑われるケースは、
「Bacterial vaginosisが疑われます。」と記載し、
更に、腟炎を伴う(白血球が増加している)ケースはBV-3
典型的なクルーセルを認め、炎症を伴わない(典型例)ケースはBV-2
クルーセルは見られないが標本背景に腟ガルドネラ菌がみられる時はBV-1
として報告しています。
あえてBV-3としたのは、腟ガルドネラ菌を退治するだけでなく、
炎症を起こしている原因も治療する必要があるからです。
白血球が増加し、炎症像を伴う細菌性腟症BV-3
クルーセルを認め、炎症像を伴わない典型的な細菌性腟症BV-2
クルーセルを認め炎症像を伴わない典型的な細菌性腟症BV-2
クルーセルはなく背景に腟ガルドネラ菌BV-1
このケースも背景に腟ガルドネラ菌BV-1としています。
BV-1もBV-2もNugent scoreで評価すると多くの場合7以上を示します。

細菌性腟症の検査・治療を積極的にお考えな先生大歓迎

細胞診の検体で積極的に細菌性腟症の報告を望む先生方、
ご連絡いただければ幸いです。
042-652-0750

細胞診でホルモンの評価ができるんですか? という友達からの質問

私が20歳の頃、初めて細胞診という言葉を耳にしました。
やがてこの細胞診断学は子宮頸がん検診の検査法として世界中に広がり、多くの女性の命を救ってきました。
その立役者Jeorge N. Papanicolaou先生ですが、写真は先生の生誕100年のお祝いの時参加者に配られたもので、アイラボに飾っています。右は先生が出版したAtlas of Exfoliative Cytologyと題した、細胞診断学のバイブル的著書です。

このパパニコロウ先生は最初からがんを診断するための研究をしていたのではなく、腟の粘膜の細胞を顕微鏡で観察してホルモンとの関係を研究していました。するとある時、今まで見たこともない細胞(多分がん細胞)が顕微鏡下に飛び込んできました。それを見て、腟の細胞を顕微鏡で観察すれば子宮頸がんの診断ができるようになるのではないかと考え、膨大な細胞の絵(当時カラー写真がないので絵師を雇い繊細な細胞の絵を書き残しました。)を載せたのがこの本です。

今回は、このパパニコロウ先生が最初にやっていいた細胞診とホルモンの話をしようと思います。
というのも、私の友達が閉経期を迎える女性の様々な悩みを解決するためのサプリに興味を持っていますので、彼女のお仕事に少しでも役立てばとの思いからです。

先ずは基本的なところを抑えましょう

この図は、結構昔になりますが伊勢原高校の学生さんにお話しした時のものです。
左の端にヒトの皮膚のシェーマを示し、右側に幼児期から閉経後の腟の粘膜を示しています。共に重層扁平上皮といういくつもの細胞が重なって丈夫な上皮になっています。皮膚と腟で異なる点は、腟上皮は角質層(皮膚の一番上にあるオレンジで染まっている部分)がないことです。
最も下の細胞は基底細胞といい剥がれることはありません。その上の細胞は旁基底細胞といいますが、幼児期や閉経して何年か経つとホルモンの影響がないため、腟は萎縮した状態ですので、腟の表面からは旁基底細胞が採取されます
これは60歳女性の腟内から得られた細胞で、丸い細胞が旁基底細胞です。
大半が旁基底細胞ですので、細胞成熟度指数(左:旁基底細胞/中央:中層細胞/右:表層細胞)でホルモンの状態を表すと、
100/0/0になります。
月経が始まった頃から閉経する前の女性は妊娠が可能な時期で、この時期を性成熟期の女性といいます。
腟の上皮はホルモンの影響で中層細胞から表層細胞まで分化(成熟)して厚くなります。
そして、1ヵ月間(月経開始から次の月経直前まで)腟内環境は劇的に変化しています。

性成熟期の女性は卵巣から2つのホルモンが分泌されます

月経がが始まると、脳下垂体というところから卵胞刺激ホルモンFSHが分泌されます。FSHは卵巣にある原子卵胞(卵の元)を刺激して卵が成熟を始めます。卵が成熟するにつれ女性ホルモン(エストロゲン)が増え、排卵の直前で最も多くなります。このエストロゲンは腟の細胞を表層細胞(一番上のピンクの細胞)まで成熟させますので、この時に腟の表面をこすってくると赤い細胞がたくさん採れてきます。そして、粘膜が厚くなることで防御力も増しますので、外部から侵入する細菌などと戦う白血球も必要ないために姿を消し、乳酸菌も増える必要がないので、腟内はとてもきれいになります。余談ですが、排卵直前は性交に備えて腟の粘膜が厚くなり、妊娠に備えてとても清潔になっているんです。神秘的ですね。
さらに神秘が続きます。排卵したことが脳下垂体に伝えられると、今度は脳下垂体から卵巣に向けて黄体形成ホルモンLHが分泌され、黄体ホルモンが徐々に増えてきます。黄体ホルモン(プロゲステロン)が増えてくると腟の粘膜の分化(成熟)は弱まり、表層細胞は剥離して中層細胞が腟の表面に露出します。一皮むけるわけですので抵抗力は下がりますので、中層細胞にはたくさんのグリコーゲンが存在します。乳酸菌はこのグリコーゲンを分解することで腟の酸度を上げ、外部から侵入する細菌の増殖を抑え込んで腟内を守っているのです。乳酸菌の働きも重要ですが、その時期に腟内には乳酸菌の栄養源(グリコーゲン)が豊富に存在することも神秘ですよね。
そしてエストロゲンとプロゲステロンの分泌が無くなると月経が起き、血液で腟内を洗い流しているのです。これも神秘的な現象ですよね。

それでは細胞の変化をみていきましょう

表層細胞の核はこのように濃縮しているのが特徴です。
中層細胞の様に細胞がグリーンに染まっていても核が濃縮していれば表層細胞です。
中層細胞の核はおよそ10ミクロンで、核内は細かな顆粒状に見えます。あまり良い白血球ではありませんが、大きさはほぼ中層細胞の核と同じです。
乳酸菌はこの周囲にいくつか見られますが、大きな菌であるのが特徴です。

旁基底細胞はかなり小型になりますが、実際はこのように劇的に小さくなるのではなく、大きさは段階的ですがおおむね丸い形をしています。
月経開始から8日目の腟表面です。
中層細胞が主体ですが、表層細胞も少し見られます。
細胞成熟度指数0/90/10位でしょうか?
背景にはまだ少し白血球がみられます。
月経開始から15日目の腟表面です。
背景に白血球はなく、すべて表層細胞になっています。
エストロゲン効果が最大になり、細胞成熟度指数0/0/100になります。
妊娠の準備が完了しています。
月経25日目頃です。
プロゲステロンの影響が出てきたので、細胞の成熟は中層細胞までとなります。
この写真で細胞成熟度指数を評価すると0/100/0になります。
月経28日目頃です。
中層細胞は元の形を留めません。たくさんの乳酸菌によって細胞が融解状となりグリコーゲンが放出されるため乳酸菌の繁殖は最高に達します。
乳酸菌が増えることで腟内の酸度が上がるため、侵入してきた他の菌は増えることができません。
酸性度が強い時は、白血球に頼る必要がないため、白血球は少ないです。

こうして腟内はホルモンや白血球、そして乳酸菌によって守られているのです。これを腟の自浄作用といいます。
この環境を守ってあげるのは貴女だけです。

ホルモンと腟内環境が理解できましたか? 本題はここから

性成熟期はFSHやLHそして卵巣からエストロゲンやプロゲステロンが分泌されることで、比較的規則性をもって性周期が繰り返されてきました。
しかし、個人差はありますがおおむね50歳頃閉経を迎えます。生理が止まる事を閉経といいますが、これはある時突然止まるわけでなく、これにも個人差はありますが数年ほどかけて徐々になくなります。この時期を閉経前期といいますが、ホルモン環境がこれまでと異なるためにさまざまな症状が出てきます。
血管の拡張や放熱に伴う症状:ほてり、のぼせ、ホッとフラッシュ
精神症状:イライラ、情緒不安定、気分の落ち込み、身体的症状:めまい、頭痛、肩こり、動悸、月経周期の乱れ、などの症状が現れます。

腟内の状況もホルモンの減少に伴い徐々に変わってきます。

50歳の方で、症状的には閉経前期と思われます。
性成熟期の女性には見られなかった旁基底細胞がみられ、細胞成熟度指数20/55/25となります。
62歳の方の細胞像です。
細胞成熟度指数100/0/0で完全な萎縮像を示しています。
この状態になると、卵巣からのエストロゲンやプロゲステロンの分泌はほとんどなくなります。
従って、腟の粘膜は薄くなり、グリコーゲンの量も乏しくなりますので、乳酸菌の栄養源がなくなるため、腟内の防衛力は極めて乏しくなるため、白血球が増えてきます。
65歳の方の腟内環境です。
前面に白血球がみられ、この方の腟内は膿(うみ)状態と思われます。
ひどい萎縮性腟炎の状態で、かなりつらいのではないかと思います。
ホルモンの分泌がなくなることで腟内のグリコーゲン量も減り、防御機構が弱くなるため、このような状況になってしまう人は少なくありません。ホルモンのありがたを実感頂けましたでしょうか。

ホルモン補充療法とは

ホルモン補充療法は、エストロゲンの分泌が低下した女性にホルモンを補うことで前に述べた様々な更年期症状の改善や予防を目的とした薬物療法ですが、効果はそれだけでなく、若々しさや活力を保つことにもなります。

当然のことながら、腟内も厚くなり赤い表層細胞も見られ、個人差はありますが70歳女性でも細胞成熟度指数0/70/30といったように若さを取り戻します。
アイラボに細胞診検査を依頼される婦人科の先生は細胞成熟度指数を利用して効果をチェックし、定期的に子宮体がんの細胞診検査を実施しています。


貴女のQOL向上のために参考になれば幸いです。

子宮頸がん検診ガイドライン2019年についての私見

我が国の子宮頸がん検診の受診率は43.6%(2022年)、HPVワクチン接種率は1.9%(2019年)と世界的に見ても最低レベルと言っても過言ではありません。
この背景には、行政の対応のまずさはいうまでもありませんが、対岸の火事的思考(遠くの出来事に無関心であること)や喉元を過ぎれば熱さも忘れるといったことわざがある様に日本人の国民性とも言われています。自分には何の症状もないし、(何の根拠もないのに)自分には子宮頸がんは関係ないと都合よく解釈したり、芸能人が子宮頸がんになったと聞くと慌てて検診を受ける人が増えるが、それも一時的です。
結局のところ、十分な教育がなされていないことが最大の要因かも知れません。
このスライドは、2015年、ライオンズクラブに在籍中、八王子市の市民団体
『有害情報から子供を守る会』主催のシンポジュウムで使用したものです。
その中に下に示す1枚のスライドがありました。
私が20代(50年も前)の頃、千葉大学教育学部養護教諭養成課程の故武田 敏教授の元で性教育を学んでいましたが、その時日本人の国民性という言葉がよく出てきました。このスライドの様に、
日本人の性に関する教育が如何にゆがめられていたかが良く理解できると思います。
私が中学生の頃、“男子は外で遊んでいろ”と言われ、女子だけが暗幕を貼った教室で何やら“男子には聞かせたくない話”がありましたが、まさにそれは月経教育であったのです。性に関することはなるべく内緒にしておく教育が今なお尾を引いている気がします。

私がHPVの研究を始めた今から40年も前のことですが、学会でHPV感染のことを発言すると座長の先生から『子宮頸がんの原因になるHPV感染は性感染症(性病)であるといってはいけない』とよく言われたものです。それはなぜかと問うと、『クラミジアや淋病とは違い、感染している人があまりに多く、症状もないので性感染症と言ってはいけない。』という回答でした。子宮頸がん検診の受診率が上がらない中、HPV感染が性感染症だと言うと、「(何の根拠もなく)私にとって性病は関係ない」という女性が益々検診を受けなくなるのではないかと心配したのかも知れません。

米国に住むある日本人いわく、HPVの感染が子宮頸がんの原因になると聞いた米国人は『私は大丈夫か?と言ってすぐ検査に行く』そうですが、日本人は(何の根拠もなく)「私はHPVには関係ない」と、対岸の火事的思考は欧米の人とは異なりますね。

私はこのブログで、セルフメディケーション(自身の健康は自分で守る)の考えを広めるため、女性特有の病気について様々なケースを紹介し、自身の知識を広めて頂きたいと考えています。
今回は最新の子宮頸がん検診ガイドラインについて勉強したいと思います。

HPV検査単独法が推奨グレードAになった

細胞診単独法HPV検査単独法推奨グレードAに、細胞診・HPV検査併用法推奨グレードCで、細胞診単独法の検体採取は医師採取に限り自己採取は認めないになっていますが、HPV検査単独法と細胞診・HPV検査併用法は、検体は医師採取を原則とするとなっています。その理由は「国内でのエビデンスが不足しており、受診率向上につながるか、精密検査以降のプロセスにつながるかなどのfeasibility研究が必要である。」としています。
HPV検査単独法と細胞診・HPV検査併用法は医師採取を原則とするになっていますので、、これまで医師採取を苦手としていた人や仕事や子育てで忙しい人、わざわざ検診機関まで出向くのが面倒という人にとっては朗報といえます。

自己採取器具エヴァリンブラシとは

エヴァリンブラシは採取後乾燥できるため郵送に適しており、医師が採取した成績と一致しているため(Tranberg et al.,BMC Infecious Diseases,18,1-7,2018. Polman et al.The lancet oncology,20,229-38.2019. Onuma et al. International Jounal of Clinical Oncology,25,1854-60,2020.)、世界中で採用されています。写真上に示すように、ストッパーがついているため、安心して使用できます。挿入部の長さは4cm、細胞採取ブラシの長さは3.3㎝で全長7.3cmの器具です。

前述のように採取後細胞は乾燥状態で検査施設まで運ばれるため、HPV検査のみに使用されます。
輸送しやすいメリットはありますが、陽性と判定された場合は、現状の進行度(NILM、LSIL、HSILなどの)が分からないので、医療機関を受診して必ず細胞診検査を受けることになります。
このルールが守れないと検査の意味が全くなくなります。

下の白い採取器具は加藤式です。子宮頸がん検診用に開発され、細胞診を目的とした自己採取器具としては最も優れた器具と思われます。当社では、医師採取が苦手な方や忙しい方、検診に足を運ぶのが面倒な方に郵送検査として提供しています。
細胞診のみならずHPV検査や淋菌クラミジアなど婦人科領域の検体採取器具として利用できます。

中のピンクの採取器具は加藤式をグレードアップしたもので、大阪の大成メディカル社が主にHPV検査用に開発したものです
加藤式と同様に保存液を添加して検査施設まで輸送しますので、同一検体で細胞診やおりもの検査にも使用できます。
HPV検査で陽性の場合、残りの検体で細胞診の追加検査ができる点が今後に期待されます。

アイラボのHPV検査単独法とは、、、、

我が国の子宮頸がん検診は細胞診単独法で進められてきましたが、受診率向上を目的に自己採取によるHPV検査単独法が自治体や企業検診への導入が期待されます。
そんな中、アイラボの郵送検査の最大の特徴は全ての検体(例えば淋菌やクラミジアの検査でも)についてパパニコロウ標本(細胞診標本)を作製し、検体の適否判定、炎症の有無、感染症や臭い、更にホルモン状態のチェックを簡単に行っています。勿論アイラボのHPV検査単独法による子宮頸がん検診でも、そのようなチェックを行っていますので、是非アイラボのHPV検査をお試しいただければ幸いです。

クラミジア感染に見られる星雲状封入体とは

子宮頸部にクラミジアが感染すると、粘膜の下にリンパ濾胞というリンパ球の集まりがつくられます。
リンパ濾胞が粘膜の表面に露出する状態になると、子宮頸部の細胞診標本には沢山のリンパ球が観察されるようになり、濾胞性頸管炎と診断することが出来ます。このことは2024,4,29日の記事で紹介しました。
今回はクラミジアが感染して細胞の中で増えるとどのように見えるのかという話をしましょう。
クラミジアは黄色の矢印で示したように、細胞の中に吸い込まれるようにして侵入して感染が成立します。そして細胞からエネルギーをもらって分裂を繰り返し、白の矢印で示したように少しずつ大きくなっていき、それらがさらに一緒になって赤の矢印で示すように大きな封入体になります。この大きな封入体はいずれ風船のように膨らみ、最後は割れて中に入っている膨大な数のクラミジアが腟内に放出されます。大きな封入体をよく見ると細かな粒子(基本小体)と大きな粒子(網様構造体)が存在します。私はこの封入体に星雲状封入体と名付けました。
Yoshio Shiina.Cytomorphologic and Immunocytochemical Studies of Chlamydial Infection in Cervical Smears,Acta Cytologica,29:683-691,1985.
この写真は私が初めてクラミジアの封入体を発見した細胞です。白や赤の矢印で示したところにこれまで経験したことがない構造が見えたため、この細胞を写真撮影した後に脱色して酵素抗体法という方法でこのものがクラミジアであることを確認しました。赤の矢印で示す封入体ではより細かな粒子と粗い粒子が観察されます。
酵素抗体法という方法、すごいでしょう!
この方法についてはまた後で紹介しますが、この方法は(非特異的な反応が出るたため)細胞診には不向きな方法と言われていたのですが、実はそんなことはなく、ある処理をすることで極めて信頼性の高い方法であることが分かったので日本臨床細胞学会誌(椎名義雄、川生昭、根本道則、他、細胞診における酵素抗体法応用に関する基礎的研究、日臨細胞誌.21:8-14)に投稿しました。その後多くの研究者がこの方法を用いていろいろなことが分かるようになりました。
クラミジアに感染した細胞に見られる様々な星雲状封入体を図にまとめました。細かい粒子が基本小体(成熟して感染力のあるクラミジア)で、大きな粒子が網様構造体(未熟なクラミジアで感染力はありません)です。
あたかも星雲の様に見えました。
図Aは感染初期、図Bは増殖が進み、図Cは成熟型で基本小体が多い、図Dは網様構造体が多い、図Eは増殖が抑えられた封入体?
図Fのcoccoid  bodyという言葉は故Guputa先生(米国ペンシルバニア大学病院病理))が名付けたことばで、我がアイラボの藪崎宏美が大学の卒業論文でcoccoid bodyは円柱上皮細胞に感染した時に見られる所見であることをやはり酵素抗体法を用いて証明しました。
星雲状封入体や酵素抗体法について分かって頂けましたか?
若き頃、こんな研究に没頭していたころを懐かしく思い出しながら、、、、
1997年、武藤化学株式会社発行の本に掲載しています。
婦人科系感染症や腫瘍に酵素抗体法を応用した内容です。

不正出血、先生は子宮頸がん検査をしたけど

ある婦人科の先生から、不正出血があった人の子宮頸がん検査の依頼がありました。
検体は血液成分が多かったので、通常より長めの(36mm幅)の標本を作製しました。
その理由は、血液成分を多く含む検体は相対的に観察すべき細胞が少なくなるのです。
早速顕微鏡を見てみましょう。
背景にはオレンジ色に染まる赤血球がたくさん見えます。
白血球はあまりないので、出血はしているものの腟炎は起こしていないようです。
標本をくまなく観察しても子宮頸がんに関係がある異型細胞は見られません。
この写真を見た段階で、アイラボの職員に標本を回しました。
流石、我が職員達は私に手渡された理由が理解できたようです。
拡大を上げてみました。
写真中央やや左下で緑色っぽい細胞はトリコモナス原虫。
これは細胞検査士ならだれでもわかります。
さて、これからが問題!
核が一つしかない細胞がコロコロしています。
リンパ球?
さらに拡大を上げてみました。
トリコモナス原虫の核が縦に細長く見えます。
この写真の中には13個くらいの細胞が見えますが、その中で核が1個しかない細胞が4個見えます。
これらはリンパ球ですが、リンパ球の割合が多いので濾胞性頸管炎が疑われます。
子宮の入り口(子宮頸部)にリンパ球の塊(リンパ濾胞)を作る代表的な感染症はクラミジア感染です。この標本の中に星雲状封入体を有する細胞が確認できれば、クラミジア感染の診断は可能ですが、それを確認できなくてもこのケースの様に濾胞性頸管炎の所見だけでも、かなりの確率でクラミジア感染を疑うことが出来ます。

従って、このケースはトリコモナスとクラミジアのダブル性感染症(性病)が疑われますので、検査を依頼された先生には、その旨を報告しました。
後日、先生からはクラミジアの追加検査を頂き、
この例もクラミジア感染が確認されました。
細胞診は奥が深いですね
これが星雲状封入体を有する細胞です。

婦人科細胞診は婦人科感染症の総合的診断法です

今後、子宮頸がん検診にHPV検査単独法を採用される自治体や健康保険組合が増えてくると思いますが、採取器具によってはHPV検査しかできませんので、このように腟内の状況を見ることが出来なくなります。
アイラボでは採取器具を加藤式やセルソフトを採用し、しかも必ず顕微鏡で検体の適否判定を行っていますので、
そこで得られる腟炎や感染症、さらに腟内フローラの状況等についても報告していきたいと考えています。
アイラボはこの作業を最も大切にしています。
HPV検査の報告は、ハイリスク型の感染があるかどうかの結果のみが報告されます。
従って、見本の報告書の中の赤い文字についての報告はありません。
自己採取法では医師の内診に相当する観察はありませんので、私達は内診に代わるものとして顕微鏡で観察した状況を報告するようにしています。

今回は少し内容がずれてしまった感はありますが、細胞診は様々な情報を提供してくれますので、受診者はもとより、結果をみた婦人科の先生方にも重要な情報提供になると思います。

自己採取法による子宮頸がん検診(2022年度)の集計が出ました

2022年5月の厚生労働省広報誌に『ワクチンについて知ってください子宮頸がんの最前線』という見出しの記事があります。
要約すると、8年ぶりに“2022年4月からHPVワクチン接種の積極的な勧奨が再開された。” その背景にはカナダやイギリスでは80%以上の人が3回の接種を済ませているのに対し、日本ではわずかに1.9%(2019年集計)であったと言っています。
そして“日本では年間11,000人が子宮頸がんを発症し、2,900名がなくなっています。”20代から発症し、30代までに治療によって子宮を摘出して妊娠できない人は1,000人にも及ぶようです。
【そして予防が大事だと!】
ワクチン接種でHPVの感染を予防しましょう。
子宮頸がん検診で早期に発見して、早期の治療につなげましょう。
ワクチンを接種しなくても2年に一度は検診を受けましょう。
2年に一度は検診を受けましょうというばかりでは日本女性は反応しないのでは

2,009年、『子宮頸がん検診の受診率を5年間で50%まで上げる。』と豪語した人がいましたが、今はどうなっているのでしょうか?

あれから13年が経って今の受診率は?

同じ広報誌の<Part4>では、健康局 がん・疾病対策課 課長補佐の渭原先生が解説されていますが、“子宮頸がん検診の受診率は43.7%”で、30代後半から50歳で50%を超えているが、20‐24歳では15.1%と最も低くなっていると解説しています。

『そうした若い世代に対して、各自治体では検診の周知のやり方を工夫しています。たとえば、成人式で啓発をしたり、大学と連携したり、SNSで情報発信をしたりしています。』、、、でも、受診率は上がらないんですよね?

つまり、“13年経過してもまだ50%の目標も達成されていない”のです。

アイラボは自己採取法を対策の柱に掲げてきました。

細胞診断学を業とする私達は、日本女性を子宮頸がんから守るために自己採取法への理解と普及に努めてきました。
その根幹には、“医師採取に比べて精度が劣る” との批判があるのなら、“細胞診のプロとして最善の努力をしてみよう。それでも意味のないことであるならまた違った方法を考えよう。” そんな思いでこの20年間自己採取法と向き合ってきました。

(ふと昔を思い出しました)細胞検査士あり方委員長を仰せつかって初めての仕事が、『細胞検査士責任賠償保険への加入』でした。ところがある時、細胞検査士会の重鎮(故MH先生)から電話を頂き、急遽日本臨床細胞学会の重鎮(故YT先生)とお会いすることになりました。YT先生曰く、全ての責任は細胞診指導医(現在は専門医)が持つので、そのような保険は必要ないと言われたのです。細胞診は細胞検査士が最初に標本を観察し(スクリーニング業務)、もし異常な細胞があればそれにチェックを打って、細胞診専門医の先生がさらに観察して最終診断を行うという仕組みです。『もし最初のスクリーニング業務で異常な細胞を見落としてしまったら、それは専門医の先生の責任ではなく、見落としてしまった細胞検査士の責任は免れません。ですから、責任賠償保険は私達にとって必須なのです』と言ってご理解を求めました。しかし内心は、(細胞検査士ありかた委員長として)間違いを犯してしまった時の責任賠償は当然のことですが、“同僚の細胞検査士に向け、細胞検査士とは極めて責任の重い仕事である、知識・技術を磨くために切磋琢磨し、この仕事に従事する上での使命感・責任感を自ら養い、細胞検査士としてのプライドを持ってほしい”という思いがありました。
その時YT先生は私にとってとても重要なお話をしてくれました。『これから細胞検査士としていろいろな仕事をしていくとき、自分の意にそぐわないことが山ほどあるかも知れないが、すぐにあきらめず、自分が納得できるまで例え相手が医師であろうと、信念を曲げないで頑張れ、ただし、(細胞検査士として)ストライキだけはやってはいけない。いいかい。』そんなお話を頂いたことを思い出しました。

日本女性の子宮頸がん検診の受診率が低い理由は、“医師に採取されるのが苦手な人”、“仕事や子育てが忙しく検診を受ける時間がない”、“症状もないのに面倒” などが考えられます。

細胞診に従事する人へのモットー

ちょうどその頃、杏林大学保健学部で教鞭をとっていたこともあり、子供たちに細胞検査士として誇りをもって生きて欲しいという思いから、(一週間ほど入院したベッドの中で)こんなことを考えました。
そして今は、アイラボのモットーとして検査室に置いてあります。

アイラボにおける自己採取型子宮頸がん検査(2022年度分追加)

2022年度(2022.4~202.3)にアイラボで実施した自己採取型子宮頸がん検査は検診機関からの依頼に加え、郵送にて個人から依頼されたものを含みますが、風俗従事者の検診は含まれません。
総受託件数は2377件で、適正に検体が採取されていなかったものは6件(0.25%)、NILM(異型細胞が見られない)は2285(96.37%)、ASC-US(細胞の由来がはっきりしない、HPV感染も否定できない)は44例(1.86%)、LSIL(軽度異形成、HPV感染)は29例(1.22%)、ASC-H(HSILの存在が否定できない)は9例(0.38%)、HSIL(中等度異形成~上皮内癌)とSCC(本来扁平上皮癌がここに入りますが、この1例は悪性が推定された特殊なケースで扁平上皮癌ではありません)は各1例、AGC(異型腺細胞)2例(0.08%)でした。従って、ASC-US以上は3.07%LSIL以上は1.78%になります。

風俗営業従事者を集計に加えなかった理由
今年度は、風俗営業従事者について、自己採取法で30名の子宮頸がん検診を実施しました。
検査の内容はハイリスク型13種のタイピング検査と細胞診を同時に検査しました。
その結果、細胞診においては、NILMが18例、ASC-US・LSIL共に5例、ASC-H・HSILがともに1例でした。
従って、ASC-US以上は40.0%LSIL以上は23.3%であり、前述の一般の人対象にした検診と郵送検査で実施したグループに比べ、おおむね10倍以上の陽性率を示しました
この結果は、我々が以前報告した成績と全く同様でした。
さらに驚くことは、同時に行ったHPVタイピング検査では23例(76.7%)において1種類以上のハイリスク型HPVの感染が確認されています。

同じ年度に行われた医師採取子宮頸がん検査の成績と比較

比較のために2検診施設の2023年3月15日までの成績を示します。なお、全ての検体はアイラボ式LBC法で標本を作製し、A検診施設はサーベックスブラシ、B検診施設は頸管ブラシで採取されています。
A検診施設は、検診総数5462件でASC-USは47例(0.84%)、LSILは8例(0.15%)、ASC-Hは2例(0.04%)、HSILは3例(0.05%)、AGCは7例(0.13%)で、ASC-US以上は1.21%LSIL以上は0.37%でした。

B検診施設は、検診総数726件でASC-USは15例(2.07%)、LSILは7例(0.96%)、ASC-H、AGCは各1例、HSILは3例(0.41%)で、ASC-US以上は3.12%LSIL以上は1.65%でした。

加藤式による子宮頸がん検診でも大きな差はありません。

私達の検査成績を見ても、加藤式自己擦過法による子宮頸がん検査は、医師採取に比べても著しく検出精度が落ちることはありません。しかし、自己採取法に関しては、ややもすれば「悪法」であるかのごとき発言をする細胞診関係者は少なくありません。
当然のことではありますが、子宮頸管内に発生する子宮頸部腺がんを早期に発見するという点からは医師採取に比べれば劣ることが想定されますが、HPV感染に伴う変化を早期に発見し、医療機関への橋渡し的役割と考えれば決して「悪法」ではなく、特に検診受診率の低い若い世代へ自己採取法の門戸を開くことで受診率向上が期待されます。健康保険組合や検診機関では「子宮頸がん検診ガイドライン」が存在することで、自己採取法は「ダメの一点張り」の機関から、「希望者には提供する」機関もあり、私個人的には、せめて「医師採取が苦手な方には自己採取を選べます」程度のやさしさがあってほしいと考えます。前述の故YT先生の言葉『これから細胞検査士としていろいろな仕事をしていくとき、自分の意にそぐわないことが山ほどあるかも知れないが、すぐにあきらめず、自分が納得できるまで例え相手が医師であろうと、信念を曲げないで頑張れ』を忘れず、少しでも子宮頸がん検診の受診率向上に努めたいと考えています。

なぜ「悪法」になってしまったのか? それにもまた訳があるのです。
それは検査にかかわる検査機関や細胞検査士の使命感が大きくかかわっているのです。
つまり、検査精度は「適切な採取」「適切な標本作製」「適切な(顕微鏡の)観察」この3つが全て適切に実施されて初めて検査法として成立するのです。従って、どの採取器具を選択すべきか、どのような標本を作製するのが良いか? いかに使命感をもって観察するかにかかっているのです。利益を優先すれば「安い採取器具を選ぶ」だろうし、「加藤式が推奨する直接塗抹より良い方法はないか」といった向上心があるか? 自己採取法なので(異常な細胞が相対的に少ないので)よりしっかり観察すべきなのに「サーっと見てしまった」といった細胞検査士の存在が「悪法」にしてしまったように思えます。
細胞診に関わるものの責任と言っても過言ではないのです。

こんなことを私達自らの反省点に掲げ、自己採取法の普及に取り組む仲間ができることを切に願うばかりです。

パートナーが検診で高度異形成と診断され、私が原因と、、、

アイラボの無料電話相談に、『彼女が子宮頸がん検診で異形成と診断され、俺が原因と怒っているので相談しました。』という男性。話を聞くと、5年ぶりに子宮頸がん検診を受けた30代前半の彼女さん。それまで数回受けた検診では何もなかったのに、あなたと付き合い始めてからこんなことになった(最近結構多い相談です)。検診の結果はHSILで、精密検査を受けるようにとあったようです。頭に来て一年半前から付き合い始めた俺に、「貴方がHPVをうつした!」、、、と言うんですが?確かに彼女と付き合う前に3人程と関係を持ったことはありますが、風俗に行ったことはありません。本当に私がうつしたんでしょうか?
そんな男性の悩みです。

私達の無料相談は“犯人捜し”のためではありませんが

『悩みを聞いて、二人が仲良く生活できるための無料相談です。』と言いながらもご相談には応じています。
このような男性からの“ご相談”や“検査キット購入理由”は結構あるようです。
“子宮頸がんの原因がHPVの感染”によることが国民に浸透してきた証と思います。
淋菌やクラミジアなどのようにおりものの異常や、痛み、さらにかゆみといったいつもと明らかに違う症状が現れると、相手を疑ったり逆に疑われたりしますが、ハイリスク型HPVの感染があっても男女共に全く症状が出ないため、疑われることなく広く男女の間で感染が広まっています。たとえ子宮頸がん検診で“ASC-USやLSIL”と診断されても、(原因が分からなかったので)“貴方からうつされた”的なトラブルはありませんでした。

しかし、現在は違います。
今回のケースの様に、女性の場合は子宮頸がん検診で異常が見つかると「いつうつったのか?」「誰からうつされたのか?」と考えるようです。そして時にはトラブルに発展することもあるようです。
この写真は、他のブログでも使用したものですが、HPVの感染からHSILになるまでを追跡した結果です。
私達の経験では、ハイリスク型HPVに感染しても、すぐにHSILに相当する細胞は検出されないのです。
この写真では限られた期間を切り取ってみているようなものですので、その前の状況は分かりません。

HPVに感染する前から追跡したケースを見てみましょう

一番左側の表は2008年4月(検査時期901)から細胞診検査を始めたケースです。2009年1月になって初めてASC-US相当の細胞が検出されました。このケースはHPV検査を実施していませんので、ASC-USになった時点を感染時期とした場合2010年10月(検査時期1010)までは、HSILの存在が否定できない細胞(ASC-H)ですら検出されません。私達はこの時期をHPV感染の第一段階と考えています。つまりこの時期は淋菌やクラミジアなどの感染と同じように単なるHPV感染症の位置づけで考えています。
中央の表でも同じように見ることができます。2009年1月(検査時期901)から2011年1月(検査時期1101)の間をHPV感染の第一段階と考えることができますが、2011年2月に初めてASC-H相当の細胞が検出されています。初めての感染からおよそ2年間はHPV感染の第一段階であり、この間は異型細胞が出たり出なかったりを繰り返します。
最も右側の表は2008年11月(検査時期811)にASC-H(HSILの存在が否定できない)が検出され、2010年4月(検査時期1004)までの間はNILM、ASC-US、ASC-H、HSILが出たりでなかったりを繰り返しています。私達はこの間をHPV感染の第2段階と考えています。
HSILは中等度異形成、高度異形成、上皮内癌相当の細胞が見られた時に診断されます。LSILは軽度異形成相当の細胞が見られた時の診断で、前述のようにHPV感染症の位置づけです。しかし、中等度異形成以上は感染症の域を超え、ヒトの細胞の中にHPVの遺伝子が組み込まれた状態になり、感染症から腫瘍(がんの方向に向かう増殖)の性格をもった段階と考えられています。従って、感染と腫瘍の両方の細胞が出現します。
2010年4月以降は自己採取法で採取された検体でもASC-H以上の異型細胞が毎回検出されるようになります。
私達はこの時期をHPV感染の第三段階としています。

さて、話を本題に戻りましょう

質問の内容をもう一度整理しておきましょう。
男性の方は1年半前からお付き合いを始めたと言っております。また女性の方は過去5年間は子宮頸がん検診を受けていなかったようです。
私達は日常無料相談を実施していますが、その理由は、女性にとって婦人科の敷居が高く、おりものや臭い、痛み、かゆみなどの症状があってもついつい我慢をしてしまうことで、病気の発見や治療が遅れてしまいますので、先ずは気軽に相談できる場が必要だと考えたからです。この無料相談は犯人探しのためではありません。皆さんがお互いの誤解を解き、これからも仲良く過ごせるために役立てばと考えています。

『一年半前から付き合い始めた俺が原因でHSILになってしまったのでしょうか?』との問いに対し、前の表で説明させて頂いたように、「その可能性はゼロではないかも知れませんが、頻度的には少ないと思います。」という答えになるでしょう。
また、男性が言う『彼女さんは5年間子宮頸がん検診を受けていなかった。』ということから考えれば、「お付き合いされる前に感染していた可能性はあるかも知れませんね。」ということも考えられます。

あくまで可能性の話しであって真実は不明

今回の男性からの質問に対しては、私達がこれまで経験したことやそれを学会で発表した内容を踏まえ紹介しました。その結果はあくまでも“可能性の域を脱していない” のです。

HPV感染についての対応には、「(今お付き合いしている)貴方にうつされたと豪語する女性」「以前にお付き合いした人もいるのでと冷静に対応できる女性」「大切な人にHPVを感染させたくないという男性」「お付き合いしてもいいけどHPVに感染していないか調べてくださいという女性」「俺がうつしたと言われて無実を証明したいという男性」「(俺がうつしたかどうかは分からないけど)勇気を出して誤った男性」、、、といったように対応は様々です。

さあそんな時あなたはどう対応しますか?

人生誰にも過去があり、そして新しい出会いがあります。
新しい人生を歩み始めた二人にはそれら過去を乗り越えて二人にとっての“幸せ”を築いて頂きたいものです。
今回のご相談内容の場合、(もし二人がこれからもずっと一緒にいたいのであれば)こんな対応はどうでしょうか?

今回、子宮頸がん検診を受けたらHSILと診断されて精密検査を受けることになっちゃった。』「それは俺が原因なのかな? そうだとしたらごめんね。」『いや、いつうつったのか分からないけど今見つかってよかった。近いうちに婦人科に行ってくるね』「そうだね。早く見つかれば悪いところだけ治療すればいいみたいだから、むしろ良かったよ。」『うん。だからあまり心配しないでね』、、、如何でしょうか?

セルフメディケーション! 子宮頸がんはHPV感染対策から

HPVに感染しないためには、対策はいろいろあります。
そもそも、どういうメカニズムで感染するのでしょうか?
例えば、HPVがたくさん存在する腟分泌物を男性性器にそっと塗ってみたとします。
実はこれでは感染しないのです。セックスは性器と性器が直接接触し、更に擦るという物理的刺激が加わります。
そのことによって目に見えない小さな傷がつき、HPVはその傷口から侵入して感染が成立します。
従って、コンドームを使用することで性器の大半は守られますが、コンドームから外れる男性性器の付け根の部分は危険にさらされます。従って、コンドームの使用は完璧には防御できませんが、かなりの確率で守れる可能性はあります。最も有効な方法は男女共にワクチンの接種ですので、真面目に検討する意義はあると思います。

医師の内診では問題ない! と言うが?

子宮頸がん検診は、子宮頸がんと関係のあるHPV感染に伴う種々の変化を細胞の顔つきを見て「現在の状況」をNILM、ASC-US、LSIL、ASC-H、HSIL、などに分類して報告するものです。すでに何度もこれらの意義を説明していますが、相変わらず無料相談でも「ASC-USってどういう事ですか?」といった質問が多いので簡単に説明します。
子宮頸がん検診はがんと関係がある状態を見つけるものです。
NILMは、「とりあえず、癌に関係のある所見は見られない」との理解でよいと思います。
ASC-USは、本来意義不明な異型細胞という意味ですが、その中に「ハイリスク型HPVの感染があるかも知れない」ものも含まれています。従って、ASC-USと診断された時は「HPV検査を受けることになっています。
LSILは、細胞診検査でHPV感染が明らかな場合で、単にHPVが感染している(感染症の)状態です。クラミジアや淋菌に感染しているのと同じなのです。通常「軽度異形成」と診断されます。
ASC-Hは、HSILの存在が否定できない時に使われます。
HSILは高度異型扁平上皮内病変という意味で、ここには中等度異形成、高度異形成、上皮内癌が入ります。
LSIL がHPVの感染症であったのに対して中等度異形成は感染症から腫瘍化の方向に向かい始めた状態です。定期的に細胞診検査と組織検査を行い、さらにその上の高度異形成や上皮内癌に進む場合は、病巣だけを取り除く円錐切除術が行われます。
今回紹介するケースは、先生が細胞を採取するときの内診で「特に目立った所見はない」という意味で“np”=no ploblemと記載されたと思われます。
果たして本当に“np”なのでしょうか?
早速顕微鏡を見てみましょう。

やっぱり内診だけでは分からないか?

確かに、子宮頸がん検診のためのベセスダ分類では「NILM」です。その意味からはno ploblem でよいのですが、
白血球の量から推測するとおりものは黄色で腟炎を伴っていると思われます。また、細菌性腟症も疑われますので、臭いも気になっているのではないかと推察されます。

顕微鏡の世界から見て初めて分かること。
先生がno ploblemと書かれたことは誤りではないのですが、顕微鏡で100倍、400倍で観察した“状況”も知らせてあげられたら? いいんだけどな?
アイラボでは、このようなケースについては、「白血球が増加し腟炎が疑われます。おりものや臭いが気になる場合は今回採取された検体でおりもの検査の追加が可能です。希望される場合は二次元コードよりお申し込み下さい。なお、分からないことがありましたらお電話でご相談下さい。」このような対応をとっています。
多くの方が追加検査を利用されています。しかし、残念なことに、多くの検診機関は、トリコモナスとカンジダの有無は報告しても、追加検査などの対応を取っていないのが現状で、むしろ「余計な記載を認めない」ところが多いのではないでしょうか?
多分対応ができないからでしょうね。
とってももったいない気がします。
そんな現状を知っておきましょう。「おりものや臭いが気になるから今年は子宮頸がん検診を受けよう。」、、、そんな方も少なくないと思います。せめて、「オリモノや臭いが心配なら、一度婦人科を受診しましょう。」位の対応があってほしいと思いますが、多分無理でしょう。
そんな時はセルフメディケーション、病院の受診か郵送検査の利用も考えてみましょう。

性器は結構傷がつく

性器、特に女性の性器は性交等で結構頻繁に傷がつきます。
性交はこするという行為ですので、腟や子宮の入り口(子宮腟部や子宮頸部)は目に見えない小さな傷がつきます。HIVやHPVなどのウイルス感染はそのような傷から体内に侵入します。
腟は、重層扁平上皮細胞という皮膚と同じように、細胞が何層にも重なっているため、色々な刺激にも強い組織なので、傷口を治す修復細胞はあまり見られませんが、子宮の入り口は円柱上皮細胞や円柱上皮細胞がより強う重層扁平上皮に変わろうとしている扁平上皮化生細胞が露出しています。このような細胞は物理的刺激にはとても弱い細胞なので、傷つきやすいのです。
今回は円柱上皮細胞が傷つき、その傷口を修復していく組織修復細胞を見ていきましょう。

細胞が平面的に並んでいます

写真左(上)の弱拡大では、平面的なシートの様に配列した細胞が見られます。
白血球など炎症に伴う細胞は見られません。
拡大を上げた右(下)の写真では、さらに細胞に重なりがないことが分かります。
また、核は比較的大きく、核の中心部分には赤く染まる大きな核小体が見られるのもこの細胞の特徴です。
核が大きく、核小体も大きいのは、細胞の増殖が盛んなことを意味しています。
それはそうですよね。傷口を早くふさがなくてがならないので、ものすごい速さで増えるからです。
このような修復細胞には時々遭遇します。
細胞診を始めた頃は、核も核小体も大きいので、、、、“悪性の細胞?” と驚きましたが、細胞が平面的に並ぶことと核小体が大きいことの特徴を覚えていれば診断を誤ることはありません。

前にも述べましたが、子宮の入り口(子宮膣部)では、外反(エクトピー)といって、月経がある女性では子宮頸部の内側で粘液を作る円柱上皮細胞が外側にめくれてきます。一層の細胞ですので性交や膣炎などで簡単に壊れてしまいますので、日常結構目にする細胞です。
従って、この細胞が見つかったとしても特に問題にはなりません。