オリモノが気になりFemバランスチェックを受けたが?

オリモノと臭いが気になり、当社の「Femバランスチェック」で検査をお願いしたという方。
確かに、オリモノや臭いが気になる人はこの検査がお勧めですが、アイラボの検査キットの中には、「おりもの&臭いの検査」というそれこそ症状にふさわしいネーミングのキットもあります。
Femバランスチェックは腟内フローラの状態とホルモン活性の両方を調べる検査で、細菌性腟症とカンジダの検査が含まれています。
一方、おりもの&臭いの検査は、細菌性腟症、カンジダ、トリコモナス、淋菌、クラミジア、腟炎を調べるキットで、性感染症(性病)も疑われる時に選んで欲しいキットです。

先ずは、アイラボが得意としている顕微鏡の世界へ

30代のこの方、①緑色の大きな細胞が主体で、②小さなゴマ粒状の細胞も比較的多く見えます。①は中層細胞といって、プロゲステロン(黄体ホルモン)が分泌されている証拠で、生理周期は次の月経前(分泌期)だろうと推測します。②は白血球で若干多くなっています。何らかの原因で腟内に炎症があるのかな?何か感染症があるのかな?、、、そんな風に見ていきます。
少し拡大を上げて観察すると、やはり好中球(感染症で増加する白血球)が増えています。よく見ると同じような大きさですが、中央付近に核が一つの細胞が2個みられます。これらはリンパ球といいますが、やや反応性で大きくなっています。この視野だけで2個見られるので、私達は濾胞性頸管炎を疑います。背景に乳酸菌や腟ガルドネラ菌はほとんど見られません。細菌性腟症を疑う所見ではありませんが、本来多くみられる乳酸菌が少ない点は、腟内フローラとしては「やや乱れている」状況です。
気になるのはリンパ球です。
2つの反応性リンパ球が見られますので、クラミジアの感染があるのかな?と考え、
結果の報告書には感染症検査の追加検査を勧めました。前にも述べましたようにFemバランスチェックには、細菌性腟症とカンジダが含まれていますので、「リンクラ&トリコモナス検査」をお勧めしました。

これがアイラボの郵送検査の特徴です

この依頼者さんは、結果を受け取った直後に追加検査の申し込みがありました。
結果は、クラミジアが陽性でした。
このケースは性感染症としては白血球の増加はそれほどでもないので、依頼者としてはオリモノが若干黄色いのは気になるが、性感染症は疑っていなかったのでしょう。
クラミジア感染症の場合、今回の様に自覚症状はあまりひどくないこともあり、気が付かない事が少なくありません。
アイラボの郵送検査では、すべての検査で検体が適正に採取されているかどうかを最初にチェックしています。
その時今回の様に腟内の状況が見えてきますので、依頼者には追加検査の必要性を伝えるようにしています。
それがアイラボの郵送検査の特徴です。

クラミジア感染に見られる星雲状封入体とは

子宮頸部にクラミジアが感染すると、粘膜の下にリンパ濾胞というリンパ球の集まりがつくられます。
リンパ濾胞が粘膜の表面に露出する状態になると、子宮頸部の細胞診標本には沢山のリンパ球が観察されるようになり、濾胞性頸管炎と診断することが出来ます。このことは2024,4,29日の記事で紹介しました。
今回はクラミジアが感染して細胞の中で増えるとどのように見えるのかという話をしましょう。
クラミジアは黄色の矢印で示したように、細胞の中に吸い込まれるようにして侵入して感染が成立します。そして細胞からエネルギーをもらって分裂を繰り返し、白の矢印で示したように少しずつ大きくなっていき、それらがさらに一緒になって赤の矢印で示すように大きな封入体になります。この大きな封入体はいずれ風船のように膨らみ、最後は割れて中に入っている膨大な数のクラミジアが腟内に放出されます。大きな封入体をよく見ると細かな粒子(基本小体)と大きな粒子(網様構造体)が存在します。私はこの封入体に星雲状封入体と名付けました。
Yoshio Shiina.Cytomorphologic and Immunocytochemical Studies of Chlamydial Infection in Cervical Smears,Acta Cytologica,29:683-691,1985.
この写真は私が初めてクラミジアの封入体を発見した細胞です。白や赤の矢印で示したところにこれまで経験したことがない構造が見えたため、この細胞を写真撮影した後に脱色して酵素抗体法という方法でこのものがクラミジアであることを確認しました。赤の矢印で示す封入体ではより細かな粒子と粗い粒子が観察されます。
酵素抗体法という方法、すごいでしょう!
この方法についてはまた後で紹介しますが、この方法は(非特異的な反応が出るたため)細胞診には不向きな方法と言われていたのですが、実はそんなことはなく、ある処理をすることで極めて信頼性の高い方法であることが分かったので日本臨床細胞学会誌(椎名義雄、川生昭、根本道則、他、細胞診における酵素抗体法応用に関する基礎的研究、日臨細胞誌.21:8-14)に投稿しました。その後多くの研究者がこの方法を用いていろいろなことが分かるようになりました。
クラミジアに感染した細胞に見られる様々な星雲状封入体を図にまとめました。細かい粒子が基本小体(成熟して感染力のあるクラミジア)で、大きな粒子が網様構造体(未熟なクラミジアで感染力はありません)です。
あたかも星雲の様に見えました。
図Aは感染初期、図Bは増殖が進み、図Cは成熟型で基本小体が多い、図Dは網様構造体が多い、図Eは増殖が抑えられた封入体?
図Fのcoccoid  bodyという言葉は故Guputa先生(米国ペンシルバニア大学病院病理))が名付けたことばで、我がアイラボの藪崎宏美が大学の卒業論文でcoccoid bodyは円柱上皮細胞に感染した時に見られる所見であることをやはり酵素抗体法を用いて証明しました。
星雲状封入体や酵素抗体法について分かって頂けましたか?
若き頃、こんな研究に没頭していたころを懐かしく思い出しながら、、、、
1997年、武藤化学株式会社発行の本に掲載しています。
婦人科系感染症や腫瘍に酵素抗体法を応用した内容です。

不正出血、先生は子宮頸がん検査をしたけど

ある婦人科の先生から、不正出血があった人の子宮頸がん検査の依頼がありました。
検体は血液成分が多かったので、通常より長めの(36mm幅)の標本を作製しました。
その理由は、血液成分を多く含む検体は相対的に観察すべき細胞が少なくなるのです。
早速顕微鏡を見てみましょう。
背景にはオレンジ色に染まる赤血球がたくさん見えます。
白血球はあまりないので、出血はしているものの腟炎は起こしていないようです。
標本をくまなく観察しても子宮頸がんに関係がある異型細胞は見られません。
この写真を見た段階で、アイラボの職員に標本を回しました。
流石、我が職員達は私に手渡された理由が理解できたようです。
拡大を上げてみました。
写真中央やや左下で緑色っぽい細胞はトリコモナス原虫。
これは細胞検査士ならだれでもわかります。
さて、これからが問題!
核が一つしかない細胞がコロコロしています。
リンパ球?
さらに拡大を上げてみました。
トリコモナス原虫の核が縦に細長く見えます。
この写真の中には13個くらいの細胞が見えますが、その中で核が1個しかない細胞が4個見えます。
これらはリンパ球ですが、リンパ球の割合が多いので濾胞性頸管炎が疑われます。
子宮の入り口(子宮頸部)にリンパ球の塊(リンパ濾胞)を作る代表的な感染症はクラミジア感染です。この標本の中に星雲状封入体を有する細胞が確認できれば、クラミジア感染の診断は可能ですが、それを確認できなくてもこのケースの様に濾胞性頸管炎の所見だけでも、かなりの確率でクラミジア感染を疑うことが出来ます。

従って、このケースはトリコモナスとクラミジアのダブル性感染症(性病)が疑われますので、検査を依頼された先生には、その旨を報告しました。
後日、先生からはクラミジアの追加検査を頂き、
この例もクラミジア感染が確認されました。
細胞診は奥が深いですね
これが星雲状封入体を有する細胞です。

婦人科細胞診は婦人科感染症の総合的診断法です

今後、子宮頸がん検診にHPV検査単独法を採用される自治体や健康保険組合が増えてくると思いますが、採取器具によってはHPV検査しかできませんので、このように腟内の状況を見ることが出来なくなります。
アイラボでは採取器具を加藤式やセルソフトを採用し、しかも必ず顕微鏡で検体の適否判定を行っていますので、
そこで得られる腟炎や感染症、さらに腟内フローラの状況等についても報告していきたいと考えています。
アイラボはこの作業を最も大切にしています。
HPV検査の報告は、ハイリスク型の感染があるかどうかの結果のみが報告されます。
従って、見本の報告書の中の赤い文字についての報告はありません。
自己採取法では医師の内診に相当する観察はありませんので、私達は内診に代わるものとして顕微鏡で観察した状況を報告するようにしています。

今回は少し内容がずれてしまった感はありますが、細胞診は様々な情報を提供してくれますので、受診者はもとより、結果をみた婦人科の先生方にも重要な情報提供になると思います。

対応のまずさが引き起こす不幸

不妊治療の婦人科でクラミジアと診断され、ご主人に疑いの目が!

中央の細胞は、子宮頸部擦過標本(子宮頸がん検診に用いる方法)に見られたクラミジア感染細胞です。
細胞の中でクラミジアが増殖して何万ものクラミジアが集まって丸く見えるのが封入体と言います。クラミジアが増えるにつれて核が細胞の端に追いやられ三日月状に見えます。
実はこの封入体、私(Drシイナ)が発見し、星雲状封入体(nebular inclusion)と命名しました。
(Yoshio Shiina:Cytomorophologic and Immunocytochemical Studies of Chlamydia in Cervical Smears.Acta Cytol.29:257-261.1985)この当時は、クラミジアの検査そのものが一般に普及する前で、私達は免疫学的な方法でクラミジア感染の研究をしていました。
これはクラミジアに感染した女性の腟分泌物に蛍光抗体法という方法を用いてクラミジアの基本小体(アップルグリーンの蛍光で見える)を検出したものです。星雲状封入体の中で基本小体が満杯になると破裂し、基本小体が腟内にばらまかれるのです。後述する抗原とはこの基本小体のことです。

アイラボの無料相談で最も多いのが今回紹介する事案です。

ケース1彼女はおりものが気になり婦人科を受診したところ、血液検査でIgAが陽性で、クラミジアと診断され、私にうつされたと言っています。私は翌日別の病院を受診し、PCR法で調べてもらい今日結果が出て陰性でした。私はこれまで風俗を利用したこともなく、性病科を受診したこともなく、症状が出たことはありません。彼女とこれからも付き合っていきたいのですが、どうしたらいいでしょうか?

ケース2子宮頸がん検診で異常な細胞はないが腟炎があると言われ婦人科を受診しました。血液検査でクラミジアに感染していることが分かり、「医師から旦那にうつされたんだよ」と言われ、現在旦那と別れ話まで発展している状態です。
旦那にはすぐ検査に行かせたのですが、PCR検査で陰性という結果を持ってきました。そもそも風俗などに行く人ではないと思っていますし、私にうそをつく人ではないと思っていましたが、医師からそのように言われ少し気が動転しています。こんなことってあるのでしょうか?

そして昨日も、ケース3『結婚して3年が経ちます。女房は不妊症で婦人科を受診していますが、抗体検査でIgAとIgGが共に陽性なので医師から薬が処方され、私が疑われています。私には身に覚えはなく、今日病院で検査して来週結果が出るんですが症状もありません。女房とは別れたくありません。どうしたらいいでしょうか?』

似たような相談は開業以来(20年前から)時々あります。

原因は“クラミジアの検査を血液検査で行った”ことによります

血液でクラミジア感染の有無を調べるのは抗体検査と言います。この方法は古くから(私が杏林大学でクラミジアの研究を行っている頃(40年ほど前)行われていますが、いずれも、過去にクラミジアの感染があったかどうかを調べるものです。
クラミジアに感染すると(クラミジアと戦うための)抗体が徐々に作られます。その抗体には、IgAとIgGがあり、IgAは感染後比較的早い時期(およそ2週間)から抗体価(抗体の量)が上昇し、6ヵ月ほどで抗体価が消失します。一方のIgG抗体はIgAに比べて抗体価の上昇は遅く感染後1ヵ月頃から上昇し、数年またはそれ以上高い抗体価を維持します

IgA抗体は感染後およそ2週間ほどで抗体価が上昇しますので、(クラミジアそのもの(抗原)を高感度に検出するPCR法の様な(抗原検出法)が普及する前は感染初期の検出法として期待されていました。しかし、IgA抗体は偽陽性(本来感染していないのに陽性の結果になる)を示すケースが多く、男女間、夫婦間で大きな問題になることが多いのです。

アイラボでこの検査を採用していないのはこのことでのトラブルを避けたいという思いがあったからです。
そんなこともあり、しばらくぶりにこの問題に遭遇しましたので、改めて現在クラミジアの抗体検査に従事している大手検査会社の担当者にこのような問題について聞いてみたところ、最近でも偽陽性例で問題になり、試薬メーカーに問い合わせてみると、メーカでもそのことを認めているとの事でした。

それなのになぜまだこの検査があるの?

不妊症外来では腟や子宮頸管は陰性でも上部生殖器にいるのか?

昔、そんなことも話題になったことがあったような記憶がよみがえってきました。
そのことについて私自身詳細な検索を行ったことはありませんので、無責任なことを記載することはできませんが、もし上部生殖器のみに感染部位があったとしても、そこで増えたクラミジアは腟内や子宮頸部に流れ落ちてくる可能性がありますので、感度の良いPCR法では検出できると思われます。

もし不妊外来で今回の様な事があったとするのであれば、何の説明もなくクラミジアの治療薬を処方された患者にとっては旦那からうつされたと思い込んでしまうのは当然かと思います。
薬を処方する前に、PCR法にて確認したからでも遅くはないのではないかと思います。
いやいや、抗体検査で陽性になったということは「過去にかかったことがある」という事なので、「現在感染している」のとは異なります。ご相談の奥様はIgGも陽性とのことですが、これについても過去の話であって現在クラミジア(抗原)が存在するかどうか、治療が必要であるかどうかは分からないのです。

血液抗体検査を採用されるのであれば、前述の様々なことを想定し、受診者に不幸な事態にならないよう十分な配慮は望まれます。

そんな悩めるカップルに私は

『こんなことで喧嘩をしてはいけません。相談してよかったですね。』
と言って電話を切ります。

彼や旦那とのトラブルで多いのは?

最近、臭いが気になったので、近くの婦人科を受診しました。
先生は、特に気になる症状はないけど、血液検査だけでもしておきましょうということで、採血されました。
一週間後に再度受診したところ、クラミジアが見つかったので、一回飲むだけでいい薬を処方されました。
でも、私は一年前にお産をした後、旦那としか関係を持っていないし、旦那にもクラミジアに感染するような行為があったかどうか確認しましたが、絶対にないの一点張り、逆に私が疑われる羽目になってしまいました。
実際こんなことがあり得るのでしょうか?

この様な質問は、無料相談を始めてから山ほど経験しました。
中には、某保健所にこのようなことを質問したら、検査をしたわけでもない「アイラボさんに聞いて下さい」と言われた方もいます。

クラミジアが陽性ですからと言ってパートナーと一緒に抗生物質を処方されたケース、パートナーが他のクリニックを受診して検査を受けたが「陰性」であったケース、陽性と診断された本人が心当たりがないので、郵送検査を受けたら「陰性」だった。こんなことが今でも起こっていること自体本当に信じられません。

クラミジアの血液抗体検査では「誤陽性」が出ます。

検査は100%正しい結果が出るとは限りません。
クラミジアの検査には、血液で調べる“抗体検査”と膣分泌物やおしっこで調べる“抗原検出法”があります。
抗原検出法は、クラミジアそのものを高感度なPCR法で検出しますが、時には陽性を判定するラインギリギリの数値を示すことがあります。このような時は、同じ検体でもう一度測定して、最終判定します。従って、誤った結果“誤陽性や誤陰性”の頻度は極めて少なくなります。
それに比べて血液で調べる“抗体検査”では「誤陽性」のケースが多いため、「陽性」と判定された場合は治療を開始する前に“抗原検出法”で『本当に現在クラミジアがいるかどうか』を確認することになっています。
“抗原検出法“で「陽性」が確認してから治療に進むことになっています。

このようなことが起こるのでアイラボでは開業当初から抗体検査は採用していません。
クラミジアに感染していないにもかかわらず抗生物質が処方され、余計なお金や時間を費やす事になるのです。
そればかりではありません。パートナーとの関係が深刻な状況になってしまうことも少なくないのです。
中には「旦那にうつされたのだから、旦那も一緒に治療しなければだめだ!」と言われたケースもあります。

今回はクラミジアのケースを紹介しましたが、
「病院に行ったら子宮がんの検査と血液検査をされました。」
「血液検査では何を調べてもらったんですか?」と質問しますと、「内容はわかりません」と回答される方がとても多いのです。「その時検査結果を頂いているのではないですか?」と聞くと、「ちょっと待って下さい」と言って内容をを初めて確認される方も結構います。
「血液検査で〇〇を調べて頂きました。」と言えるようにしましょう。
自分の健康が心配になり、早めにクリニックを受診することは「早期発見、早期治療」の観点からはとても大切なことです。しかし今回のように、自分が納得できないケースも少なくありません。また、以前も“ぼやき”ましたが、患者さんが「ASC-USってどんな状態ですかでしょうか?」と質問したら、「ASC-US以下でも、ASC-US以上でもない」と答えた先生もいました。先生方にもいろいろな事情があって、うまく伝えることが出来ないことだってあると思います。そんな時はそのままにせず、お気軽にご相談下さい。

また、オンライン診療や受診前に郵送検査で確認しておく方法もあります。