クラミジア感染に見られる星雲状封入体とは

子宮頸部にクラミジアが感染すると、粘膜の下にリンパ濾胞というリンパ球の集まりがつくられます。
リンパ濾胞が粘膜の表面に露出する状態になると、子宮頸部の細胞診標本には沢山のリンパ球が観察されるようになり、濾胞性頸管炎と診断することが出来ます。このことは2024,4,29日の記事で紹介しました。
今回はクラミジアが感染して細胞の中で増えるとどのように見えるのかという話をしましょう。
クラミジアは黄色の矢印で示したように、細胞の中に吸い込まれるようにして侵入して感染が成立します。そして細胞からエネルギーをもらって分裂を繰り返し、白の矢印で示したように少しずつ大きくなっていき、それらがさらに一緒になって赤の矢印で示すように大きな封入体になります。この大きな封入体はいずれ風船のように膨らみ、最後は割れて中に入っている膨大な数のクラミジアが腟内に放出されます。大きな封入体をよく見ると細かな粒子(基本小体)と大きな粒子(網様構造体)が存在します。私はこの封入体に星雲状封入体と名付けました。
Yoshio Shiina.Cytomorphologic and Immunocytochemical Studies of Chlamydial Infection in Cervical Smears,Acta Cytologica,29:683-691,1985.
この写真は私が初めてクラミジアの封入体を発見した細胞です。白や赤の矢印で示したところにこれまで経験したことがない構造が見えたため、この細胞を写真撮影した後に脱色して酵素抗体法という方法でこのものがクラミジアであることを確認しました。赤の矢印で示す封入体ではより細かな粒子と粗い粒子が観察されます。
酵素抗体法という方法、すごいでしょう!
この方法についてはまた後で紹介しますが、この方法は(非特異的な反応が出るたため)細胞診には不向きな方法と言われていたのですが、実はそんなことはなく、ある処理をすることで極めて信頼性の高い方法であることが分かったので日本臨床細胞学会誌(椎名義雄、川生昭、根本道則、他、細胞診における酵素抗体法応用に関する基礎的研究、日臨細胞誌.21:8-14)に投稿しました。その後多くの研究者がこの方法を用いていろいろなことが分かるようになりました。
クラミジアに感染した細胞に見られる様々な星雲状封入体を図にまとめました。細かい粒子が基本小体(成熟して感染力のあるクラミジア)で、大きな粒子が網様構造体(未熟なクラミジアで感染力はありません)です。
あたかも星雲の様に見えました。
図Aは感染初期、図Bは増殖が進み、図Cは成熟型で基本小体が多い、図Dは網様構造体が多い、図Eは増殖が抑えられた封入体?
図Fのcoccoid  bodyという言葉は故Guputa先生(米国ペンシルバニア大学病院病理))が名付けたことばで、我がアイラボの藪崎宏美が大学の卒業論文でcoccoid bodyは円柱上皮細胞に感染した時に見られる所見であることをやはり酵素抗体法を用いて証明しました。
星雲状封入体や酵素抗体法について分かって頂けましたか?
若き頃、こんな研究に没頭していたころを懐かしく思い出しながら、、、、
1997年、武藤化学株式会社発行の本に掲載しています。
婦人科系感染症や腫瘍に酵素抗体法を応用した内容です。