1月25日NHK放送 クローズアップ現代「急増なぜ?梅毒“過去最多”の衝撃 感染から身を守るには」について Dr.シイナの感想

先日1月25日、NHKにてこのような放送がありました。

クローズアップ現代「急増なぜ?梅毒“過去最多”の衝撃 感染から身を守るには」

コロンブスの乗組員が大陸からヨーロッパに持ち込んだとする“梅毒”が、最近日本で急速に増えてきています。そんな背景があってのことと思いますが、1月25日の桑子さんのクローズアップ現代は“性感染症”がテーマでした。

日本人は性に関しては大変秘匿性が高く、メディアも直接的な表現を避ける傾向がありますので、司会の桑子さんとコメンテーターの川名先生も使われる言葉や表現には大変苦労されたのではないかと思います。その分、視聴者から見れば、目新しいことを期待するのは難しいテーマなのです。

50年も前の話になりますが、私は、千葉大学教育学部(養護教諭養成課程)教授武田 敏先生の研究をお手伝いしていましたが、当時の武田先生は月に何度も全国の高校に性教育の講演に招かれていました。
そんな先生が、講演から帰ってくるたびに「講演に招かれることは光栄なことだが、主催者側の根底には“臭い物には蓋をしろ”や“寝ている虎を起こすな”的思想があり、思うように子供達に伝えられないと悩んでいました。

NHK(桑子さん)が大変難しい性感染症をテーマを選ばれ、お二人がどんな言葉で何を伝えるのか、そして、どれだけ踏み込めるか大変興味を持って拝見しました。
「梅毒」「クラミジア」「淋病」「早期発見」「感染の広がり方」「早期発見の重要性」「専門医療機関だけでなくかかりつけ医でも」「婦人科の敷居は高い」、、、などがお話になられたキーワードでした。
内容は私達が開業した20年前と大きな違いはなく、やはり性に関わる問題の難しさが改めて伝わってきました。

そんな中で私が最も嬉しかったことは、「郵送検査」と言う言葉が川名先生から”チョットだけ“出たことです。
秘匿性の高い国民に、もっと気軽に検査を受けられる場を提供したいとの思いから郵送検査を始めました。直接医師が関わらないので、法的に問題はないのか? 学会関係からの反発はないのか? など、石橋をたたきながらの船出でした。

郵送検査を後押ししてくれたのは、産婦人科医であり細胞診専門医でもあった故八田賢明先生の熱い言葉でした。
「椎名君、女性にとって私達の産婦人科クリニックはとても敷居が高いんだよ。お産以外には来たくない所なんだよ。そのため発見が遅れ、(HPV感染が原因の)子宮頸がんや(クラミジア感染が原因の)不妊症になってしまうんだよ。病院に来なくても、自分で採取してポストに入れるだけで結果が分かる“精度の高い検査”を考えてくれよ。」でした。
こんな優しい先生の考えに感銘を受け、何とか郵送検査を社会に認知させたいと考えていました。
そのために私が重視したのは
高い検査精度⇒患者さんが日本全国どこの病院を受診しても先生方に受診者の現状を理解して頂くため、可能な限り写真を添付することにしました。
②検査を受けて頂いた人に対するフォローアップ体制の充実⇒検査前、検査後の電話相談を充実させるため、スタッフに日本性感染症学会認定士の資格を取得してもらいました。
③そして、クリニックの先生方と患者さんの橋渡し的役割が得られれば、患者さんにとって産婦人科クリニックの敷居を下げることが出来るのではないかと考えたのです。

そして約20年が経った今、郵送検査はいろいろな方の努力があって少しずつ社会に認められるようになってきたことは嬉しく思っています。
もっとそのすそ野が広がり、老若男女を問わず、子宮頸がんや性感染症に関する知識が浸透すれば、おのずと“恥ずかしいことではなく”“内緒にすべきことでもない”“自ら率先してワクチンや検診を受ける”そんな社会の実現に寄与できればと思っています。

性感染症が増加する要因は今回の番組の中でも紹介されたように、男女共にに不特定多数の人との接触が原因であることは明白です。そのようなことは中学生ぐらいになれば(望まない妊娠や性病についても)大半は理解していると思います。それなのになぜこのような番組が必要なのでしょうか? 長くこの問題を考えてきた一人として、性に関しては「それは悪い」「それならいい」と一線を引くことができない様々な問題があるからではないでしょうか。性に関係する様々な行動はその人個人が決定するわけですので、
可能な限り適切な判断ができる基本的な知識を享受することが重要であり、20年前と変わらない内容であってもそれを繰り返し提供することの意義は大きいと思います。

私はこのサイトでセルフメディケーションを応援しています。
自分の行動は他の人が知る由もありません。従って、“自身の行動に対しては自身が責任を持ち”、“自身の健康は自分で守る”ことが原則であろうと考えます。

最近同じようなケースが少なくありません。

写真左(最初)私達が顕微鏡で見ている弱拡大、「どこにそんなおおかしな細胞があるの?っていう感じ。中央付近にあるよ!
私達細胞検査士はこんな小さな細胞を見逃すことができない仕事なんですよ。

写真右(2枚目)の強拡大では、周りが緑色で、中央が紫に染まる細胞がかたまっています。これが問題の細胞です。
細胞が小さいこと、緑色の細胞に占める(紫で染まる)核の割合がとても大きくなっていることが重要で、私達はこの細胞を見ると高度異形成かな?と推定します。

つまりこの方は“ギリギリセーフ”という段階で上皮内癌のほんの一歩手前という感じです。
今後この方は、婦人科を受診して詳しい検査(組織検査)を行うことになりますが、子宮を全摘することなしに、病巣だけを切除する円錐切除術が行われる可能性が高いと思われます。
自己採取法は認めない」という強い表現がなされているのにはそれなりの理由があるのです。
採取器具の選択や顕微鏡で観察する標本の作り方、さらには写真の様に“異常な細胞の数が少ない上に細胞が小さいので見逃されやすい”という特徴があるのです。この点を十二分に理解しないで自己採取法を提供すると、検査ではなくなってしまうのです。
私達が所属する東京都においても、毎年衛生検査所精度管理事業報告書という形で異常な細胞の検出率などがまとめられていますが、結果を見れば一目瞭然なのです。
私達は、細胞診検査の自己採取法については、子宮頸がん検診の受診率が上がらないこと、医師採取が苦手(絶対にイヤ!という人も)な人達には必要な方法と考えています。
検査を受け入れる側の意識改革が望まれるところであり、アイラボでも協力は惜しみません。
“わかっちゃいるけどやめられね”、、、と、植木等さんが歌っていました。
アイラボの無料相談でも、風俗のサービスを利用したり、ネットで知り合った人から「病気がうつった」という方は少なくありません。「もう絶対にしない!」と、大大反省したにもかかわらず、治療が終えて全快すればまたいつもの行動パターンに戻っている。そんな人結構少なくありません。これも「いい」「悪い」の問題ではなく、自分が決めて行動しているわけですから全ての責任は「自身」にあるわけです。パートナーにとってはそんなこと知る由もありませんので、翌年の子宮頸がん検診でLSILやASC-USと診断され始めて気付くことになります。もし検診を受けていなければ、がんが進行するまで気が付かないことがあるのです。

“子宮頸がんはHPVの感染が引き金になる”この事実が広く社会に浸透してきました。
数年前から男性の「HPVタイピング検査」が急速に注目を集めてきました。理由を聞くと、「自分はこれまで複数の女性と関係があったので、大切な人にうつしたくないが最も多かったのですが、最近は「お付き合いを始めた彼女が「HPVタイピング検査」を受けてくれたら先に進んでもいいというので」という人が増えてきました。つまり、女性の側から“HPV感染を避けるための行動”が広まりつつあります。

まさしくセルフメディケーション「HPVの感染も自身で守ろう」とする行動の変化が現実化してきたようです。
高い敷居を超えなくても、郵送検査は自身の健康を容易にチェックできるので、今後オンライン診療においても不可欠なツールとして期待されます。