やはりHSILが潜んでいた

前回、HPV感染のケースで、大型巨細胞が出現した記事を書きましたが、またこんな細胞が!
本当にLSILでいいのかな?、、、と、思いきや、やはり潜んでいました。見つかってよかった。
そんな感じです。

私達アイラボでは、病院から依頼される医師採取標本は25×25mm(625㎟)の標本を作製します。また、加藤式器具で採取された自己採取検体は、25×36mm(900㎟)の範囲に細胞を塗抹します。医師採取検体はSurePath標本のおよそ5.5倍、ThinPrep標本のおよそ1.6倍になり、自己採取標本ではSurePath標本のおよそ7.9倍、ThinPrep標本の2.4倍の細胞を観察していることになります。

目立つ細胞に目をとらわれていると、より悪い細胞を見落とす危険性が出てきます。
今回紹介するケースはアイラボの標本ですが、ごくわずかなHSIL相当の細胞が見られたケースです。
慎重な観察(スクリーニング)を怠ると、LSILとして報告される可能性があります。

早速見てみましょう。

LSILとHSILでは雲泥の差

最初に目に飛び込んできた細胞は上の写真です。
これらの細胞は、前回紹介した細胞とほとんど同じ巨細胞化したHPV感染細胞です。
このような細胞だけなら、HPV感染でLSIL(軽度扁平上皮内病変=軽度異形成)ということになりますが、標本内の数か所に下のような細胞集塊を認めました。中層から深層型の異型細胞で、HSILを考えなくてはいけないケースです。しかし異型細胞が少ないこともあったので、ASC-H(HSILの存在も否定できない)と診断しました。

観察する細胞が少ない標本では、異常な細胞の割合も少なくなるので、発見できる可能性はさらに低くなります。
最下段は、アイラボの標本と自動標本作製装置によるものの比較です。
検体の採取法や標本作製法は医療機関によって様々です。
検査を受ける側からすれば“どこで検査しても同じ”と思うでしょうが、検体の採取も綿棒や特殊な形をしたブラシなど様々です。アイラボは産科を標榜されている先生方は「綿棒採取」それ以外はサーベックスブラシを使用している先生が多いようです。

綿棒採取は精度が悪いと言われていますが、その理由は先生方が綿棒で採取した検体を直接スライドガラスに塗抹すると、せっかく採取された細胞が綿棒側に残り、スライドガラスに肝心の細胞が十分塗抹されないことによります。従って、アイラボでは、先生方が採取した綿棒をそのまま保存液に入れてアイラボまで搬送し、アイラボで細胞検査士が綿棒から細胞成分全てこき落としているため、検査精度に影響することはありません。当然のことですが、子宮頸管内を精査したい時はブラシを利用されていますが、それは医師の判断によります。
一方、より強引に細胞を採取するサーベックスブラシは、細胞を採取するという点では優れていますが、子宮腟部、
扁平円柱接合部(SCJ)、子宮頸部領域の全ての細胞を掻き採ってくるため、細胞診断を難しくしている傾向があります。つまり、あまり異常ではない細胞も異常なのではないかとの心配からover diagnosis(過剰診断)する傾向にあるような気がします。
結果的に細胞診の精度の低下につながる可能性も否定できないのではないかと思います。

今回の記事は何やら専門的な話に陥ってしまいましたが、受診者の皆さんは、ASC-US以上の細胞が検出された時は医師の指示に従い、定期的な追跡検査を怠らないことが大切と思います。
また最近、HPVの遺伝子検査が普及していますので、HPV検査で陽性の場合は感染しているHPVの型を調べておかれるのも、子宮頸がんに対する意識を持続させる点からも勧めています。アイラボでは「HPVタイピング検査」として高感度なUniplex E6/E7 PCR法で調べています。
このUniplex E&/E7 PCR 法は杏林大学保健学部大河戸先生のグループが開発した方法で、例えばいつもこのブログで見て頂いている1個の細胞からでも感染しているHPVの検出は可能なんです。最近、女性に優しい男性から注目されている検査です。自分の大切な人にはHPVを感染させない!これもセルフメディケーション!

症状だけで病気を決めつけないで!

おりものの臭いが気になり、細菌性腟症ではないかと心配になり、アイラボの「腟内フローラチェック」のキットを購入された方もケースです。
細菌性腟症はおりものが“魚の生臭い臭いがする”と表現する方が多いように、専門的には「魚臭帯下」と言います。実はこの病気は、私が初めて学会で報告した40年ほど前は、婦人科の先生方にもあまり知られていない病気でした。しかし最近では、ネットの普及によって多くの方に知られる病気になりました。
それだけではありません。この病気を疑って検査を依頼された方の多くは細菌性腟症です。

さて、今回の方も正解(細菌性腟症)なのでしょうか?
早速顕微鏡を見てみましょう。

あれ?

これは細菌性腟症ではなさそうです。

写真の背景にはなにやら細菌のようなものがたくさん見えます。
「細菌性腟症は」はずれですね。
正解は腟カンジダ症です。
拡大を上げた右(下)の写真には、少し赤みがかった酵母の様な細菌が見えます。
木の枝のような仮性菌糸は見られませんが、まさしくカンジダです。
腟内はカンジダだらけの状態と思われます。
これではおりもののにおいが気になるはずです。
腟カンジダ症の症状は“かゆみ”ですが、この方は特にかゆみは気にならなかったようです。
かゆみの次は“白いおりもの”が特徴で、“オカラ様”とか“かゆ状(おかゆの様に見える状態)”だとか、“カッテージチーズ様”などと表現されます。このケースでは、これらの症状も特に気になるほどではなかったようです。
なので、細菌性腟症を疑ったのかも知れませんね。

婦人科の先生方から依頼される検査でもよく経験することですが、先生から「カンジダはいますか?」という依頼があるケースでも、実は「細菌性腟症」だったり、またその逆であったりすることも少なくありません。症状だけでは「はずれ」もあり、実際は「細菌性腟症」なのに「カンジダ」の治療薬が処方されるケースもあるようです。
多くの女性が悩むこの病気(個人的には病気ではなく状態)ですが、先生方にも「大したことはない!」と、素通りされてしまうのかも知れません。子宮頸がん検診でも細菌性腟症にはたくさん遭遇しますが、報告書に記載しないよう指示されることも少なくないのは大変残念なことです。
だから検査があるのです。今回のケースは腟内フローラチェックの依頼でしたので、カンジダの検査も含まれているので“幸運”でした。今回の教訓は「症状だけで決めつけない」ちゃんと検査で確認することが大切!、、、です。セルフメディケーション!検査をされたあなたは合格!

HPV感染細胞がすごすぎない?

もう50年以上もこの仕事をしていますが、こんなに激しい異型細胞が標本のあちこちに見られる事ってあっただろうか? HPVの性格が変わってきたのかな? 皆さんご存じのように、コロナでも色々変異しますしね。
昔、こんな異型の強い細胞が出てきたら癌を疑っていたかもしれません。

標本を観察している時に、あまりにもすごい異型細胞に遭遇すると私でもそれに目を奪われてしまいます。冷静に!、冷静に!もっと怖いやつが潜んではいないか?、、、と、いつも言い聞かせて観察(スクリーニング)しています。

今日もそんな細胞との出会いがありました。
それではじっくり見ていきましょうか。

ウイルスってすごいね!

今回は角化(オレンジ色に強く染まる)細胞で、超大型の異型細胞を紹介します。
写真上の左(一番上)は弱拡大ですが、周りに見られる細胞に比べ数倍以上の大きなオレンジ色の細胞が見られます。拡大を上げてみると、その中央には複数の大きな核が見られます。
次の写真も同じように巨大な細胞でいくつかの核が存在します。

こんな驚くような細胞ですが、私達はLSIL(HPV感染を伴う軽度異形成)と診断します。
LSILとは“軽度扁平上皮内病変”という位置付で、がんの方に向かう腫瘍性の病変ではなく、淋菌やクラミジアなどと同じく感染症としての位置づけです。女性の場合、おおむねその90%は自然にいなくなります。残りの10%程で感染が持続してHSIL(高度扁平上皮内病変)へと進みます。
LSILと診断された場合は、細胞診検査で “HPV感染が明らか” になったわけですので、その後は定期的に追跡検査が必要になります。
3ヵ月から半年に一度婦人科を受診して細胞診検査を受けることになります。
その第一の目的は、HSILへと進行していないかをチェックする分けですが、軽度異形成の段階では異常な細胞が全く発見できないこともありますので、一度NILM (異常な細胞が見られない)と診断されても、油断することなく定期的なfollow-up が大切になります。
大変面倒なことですが陰性化するまでは主治医の指示に従いましょう。
検診でせっかく見つかってもその後病院を受診されない方もおります。
セルフメディケーション!あなたの健康は貴女しか守れません!

おりものが心配! 病院に行けない!

最近おりものが心配です。病院に行かなければいけないのは分かっているんですが、いざとなると仕事が忙しいとか自分自身で言い訳をつくって後回しにしています。
そんな時、郵送検査で簡単に調べられることを知りました。
初めての挑戦ですが、「セルフメディケーション、、、自分の健康は自分で守る」という言葉に賛同してこの検査を受けることにしました。

そんなお客様のケースを紹介します。
今ネットではいろいろなサプリが売られていますが、この方もつい手を出しそうになってしまうくらい悩まれていたようですが、実際購入するには怖くて手が出せなかったようです。

そんな悩める方の顕微鏡像を見てみましょう。

全く問題ないのでは?

写真左(上)は弱拡大です。少し白血球は見えますが、比較的きれいな腟内であることが分かります。
中層細胞が主体で、性周期的には月経前の分泌期(黄体期)ではないかと思います。
拡大を上げてみましょう。中央にある大きな細胞が中層細胞ですが、その周りには中層細胞が融解された細胞断片が見られます。
また、それら細胞の周りには細長い針のような細菌がたくさん見られます。これは乳酸菌の仲間で、中層細胞にたくさん含まれるグリコーゲン(糖分)を栄養源にして増えているのです。
とても健康的な状態で、腟内フローラチェックは「とても良い」評価になります。

こんなに健康的な腟内環境なのになぜ悩んでいたんでしょうね。
実はこの方の様に、実際検査をしてみると何でもないケースが結構あります。
以前、アイラボの無料相談を利用された方で、性交経験が全くなくないのですが、若いころからおりものや臭いのことが心配で、一人でずっと悩まれたようです。一年前に彼ができましたが、まだ体の関係にはなっていませんが、なんとなくその関係が近い気がするようになってからおりものや臭いが心配になり、市販されている色々なものを試しましたが気になる症状は改善されなかったと言います。その方がアイラボの腟内フローラチェックを試されました。その結果は、白血球が多少増加し、軽い腟炎があるかも?、、、程度でしたが、乳酸菌の仲間も十分見られ、細菌性腟症やカンジダ症を疑う所見も見られません。

臭いには個人差もあり、また感じ方も人によって様々かと思います。
私達に「臭いが気になる」という相談をされて検査した方の多くは(80%以上かな?)細菌性腟症や感染症を伴うことが多いのですが、今回の様に腟内フローラの状況が良好なのにもかかわらず悩み苦しんでいる方がいるのも事実かと思います。不安を抱えたままいろいろなことを試すより、先ずは今の状況っをしっかりチェックする生活習慣ができるとよいのではないでしょうか?

私達アイラボが少しでもお役に立てれば幸いです。
一人で悩むよりまず相談、まず検査が良いと思います。
決めるのは貴女しかいません。セルフメディケーション!

自己採取法は子宮頸部腺がんの早期発見は苦手

子宮頸がんを対象にした“子宮頸部細胞診”で最も厄介なのが、子宮頸部腺領域の異型細胞です。
特に問題となるのは“子宮頸部腺がん”を見落とさない業務です。
そのために先ず大切になる点は「適切な細胞採取」です。これは採取する医師の責任が問われます。検査精度で大切な二つ目は“適切な標本の作製”ですが、特に粘液成分が多い検体として提出された場合に問題になります。私達のアイラボでは独自の保存液に検体を採取し、細胞検査士が標本を作製しますので、検体の条件に合わせて標本を作製しますので大きな問題にはなりませんが、自動標本作製装置を使用して標本を作製する場合は大変厄介になります。

アイラボでは、医師採取が苦手な方に自己採取法による検査を提供していますが、子宮頸部腺がんの場合、病巣が腟の内側に露出していれば検出できる可能性がありますが、採取器具が届かない少し奥に発生した場合には早期の発見が困難になりますすので、基本的には子宮頸部腺がんを検査の対象にしていません。

今回紹介する“子宮頸部腺がんを疑わせる”症例はどんな細胞が見られたのでしょうか?
早速それら細胞を見てみましょう。

細胞が塊で見えます。

左上(一番上)は加藤式自己採取器具を挿入した時の腟と子宮の入口(子宮膣部)の位置的関係を示しています。
通常の子宮頸がん(扁平上皮癌)は主に青色で示された子宮腟部に発生しますので、自然に剥がれて腟内に溜まった細胞と青色の部分をこすって採れた細胞で調べることは可能です。しかし、青色より少し中に入った子宮頸管内やもっとその奥の子宮体内膜から新鮮な細胞を採取することはできません。従って、基本的にはそのような場所にできるがんを対象にはしていませんが、本来奥にできた癌が青色の方まで広がってきて表面に露出した場合やがんの表面から自然に剥離して腟の奥に溜まっていた細胞は自己採取法でも採取できることがあります。(自己採取法を採用する場合はあくまで「早期の発見は困難」という条件を説明する必要があります。

写真右上(2番目)は自己採取法で子宮頸がん検診を受けた方の写真です。腟内は炎症もなく比較的きれいに見えますが、中央にいくつもの細胞が集まったように見える集塊を認めます。その部位を拡大したのが左下(3番目)の細胞です。核が何層かに重なり(重積性)、核の大きさがかなり違っています(核の大小不同)。また、少し見づらいのですが大きな核小体も存在しします。自然に剥がれ落ちた様に見えるこのような所見は腺がん細胞の特徴になっています。写真右下の細胞も同じ標本の中に見られましたが、かきむしって採取されたような比較的新鮮に見える異常な細胞です。この写真から想像できることは病巣が子宮腟部側に露出している可能性が考えられます。

このような異型の細胞が見られますので婦人科を受診される旨の報告をしました。
私どもは約20年間、自己採取法による子宮頸がん検診を受け入れてまいりました。
今回のような子宮の奥(子宮頸部腺領域)由来の異型な細胞は年度によって異なりますが平均0.2%程(1000件当たり2名)検出されていますが、直接病巣を擦過できない可能性があるため、基本的には検査の対象外としています。

今年になって子宮頸部腺がんが発見されたという報告を頂いたケースがありました。
その方は昨年の子宮頸がん検診は自己採取法で受け陰性(NILM)でした。一昨年は医師採取で検診を受けましたが
陰性(NILM)とのことです。昨年の標本を見直しましたが、腺がんを疑う細胞はもとより、痕跡すら見られないきれいな標本でした。この方は今年になって不正出血があったことで婦人科を受診し、子宮頸部腺がんが発見されたとのことです。現段階でその詳細は明らかでありませんが、その癌が早期であってほしいことを祈るばかりですが、このようなケースを少なくするためには検査だけではなく、受診者の皆さんにも子宮頸部腺がんに対する意識をもてるような情報の発信が大切であることを痛感します。

アイラボの報告書には、
注意1)この度の結果にかかわらず、既に閉経されている方で不正出血が見られた時は、婦人科を受診して体がん検査を受けましょう。
注意2)この度の結果にかかわらず、以前に比べ粘液様のおりもの(帯下)が増えた時は、アイラボの無料相談をご利用頂くか、婦人科を受診して下さい。※自己採取型の子宮頸がん検査は子宮の奥に発生したがんを早期に発見するのは困難なことがあります。
という注意事項を記載しています。
セルフメディケーション!!子宮頸がんの大部分は検診や自己管理(不正出血や粘液の異常)によって早く発見できます。面倒がらず、おかしい時には早めに婦人科を受診しましょう。

おりもの検査でこんな細胞が?

おりものや臭いの心配はないようですが、痒みがある方から「おりもの&臭いの検査」の依頼がありました。
痒みの自覚症状がある場合、最も一般的な感染症は腟カンジダ症で、膀胱炎や風邪などで抗生物質が処方された後(菌交代現象といいます)によく発症します。その他にはトリコモナスの感染やHPVの感染初期、ヘルペスや淋菌などの感染初期にも症状を訴える方がいます。また、妊娠時は腟内のグリコーゲン量が増えるため、カンジダとしては増えやすい環境になります。

この方は、「おりもの&臭いの検査(カンジダ、トリコモナス、淋菌、クラミジア、細菌性腟症)」では全て陰性でしたが、検体の適否判定用標本中に異型細胞(ASC-US~LSIL相当の細胞)が見られましたので、子宮頸がん細胞診検査の追加検査をお勧めしました。
検査結果をご覧になった受診者様からは“即”追加検査の依頼がありました。

今回はこのケースについて紹介します。

やはり追加検査は正解!

先ず、「おりもの&臭いの検査」時に見られた標本から見てみましょう。
写真上の左(一番上)では腟内に白血球の増加(炎症)はなく、トリコモナス、カンジダ及び細菌性腟症を疑う所見も見られません。しかし、写真の中央付近に核がやや大きなASC-US~LSIL程度の異型細胞が見られますので、しっかり細胞診検査はしておいた方が良いとの判断から追加検査をお勧めしました。

上の右(上から2番目)はアイラボで日常行っている顕微鏡観察用の標本です。
上は、アイラボに依頼される全ての検体(例えばクラミジアの単独検査でも)はこのような標本を作製して検体の適否判定を行うのと同時に、白血球の量を観察して炎症の有無を調べます。また、「おりもの&臭いの検査」や「腟内フローラチェックの検査」にもこのように作製した標本を使用します。
下は「子宮頸がん細胞診検査」用の標本です。観察する細胞は「おりもの&臭いの検査」のおおむね10倍ほどになりますので追加検査をすることで精度は更に高くなります。

新たに作製した「子宮頸がん細胞診検査」用の標本中には「おりもの&臭いの検査」用の標本に見られたASC-US~LSIL相当の細胞以外に、下の左右の写真に見られるような中層から深層型の異型細胞も観察されました。
最終的にはHSIL(中等度異形成以上)の存在が否定できないため、ASC-Hと判定し、婦人科の受診を勧めました。

追加検査を進めてよかった!!!
追加検査をお勧めするのはお金もかかりますので結構迷います。例えば、「子宮頸がん細胞診検査」を依頼された方の標本中に白血球が多数見られた(ひどい膣炎)時には「おりもの&臭いの検査」の追加をお勧めしますが、全てが陰性である事もあります。そんな時は心からすみませんという思いになります。そしてまた同時に“ではこの炎症の原因は何なのか”ということになります。そこでまた“このまま検査を終了すべきなのか、はたまたマイコプラズマやウレアプラズマなどの検査を進めるべきか?”葛藤が起こります。検査を受けていただいたお客様にとっては、「またかよ!」と思われるか知れませんが、私はやんわり「マイコプラズマチェック」をお勧めしています。
なぜかというと、最初の「子宮頸がん細胞検査」を依頼された時点で、“なんかおかしい?”と感じて検査を依頼される方が多いからです。そんな悩みを何とか解決してあげたいという思いを優先させます。
その結果、マイコプラズマやウレアプラズマが検出されて治療に進んだケースが多いことを度々経験したからです。
“セルフメディケーション!自分の健康は自分で守る。”
そんな皆さんのために私達の経験が生かせればアイラボをやっている意義があると確信しています。

性器は結構傷がつく

性器、特に女性の性器は性交等で結構頻繁に傷がつきます。
性交はこするという行為ですので、腟や子宮の入り口(子宮腟部や子宮頸部)は目に見えない小さな傷がつきます。HIVやHPVなどのウイルス感染はそのような傷から体内に侵入します。
腟は、重層扁平上皮細胞という皮膚と同じように、細胞が何層にも重なっているため、色々な刺激にも強い組織なので、傷口を治す修復細胞はあまり見られませんが、子宮の入り口は円柱上皮細胞や円柱上皮細胞がより強う重層扁平上皮に変わろうとしている扁平上皮化生細胞が露出しています。このような細胞は物理的刺激にはとても弱い細胞なので、傷つきやすいのです。
今回は円柱上皮細胞が傷つき、その傷口を修復していく組織修復細胞を見ていきましょう。

細胞が平面的に並んでいます

写真左(上)の弱拡大では、平面的なシートの様に配列した細胞が見られます。
白血球など炎症に伴う細胞は見られません。
拡大を上げた右(下)の写真では、さらに細胞に重なりがないことが分かります。
また、核は比較的大きく、核の中心部分には赤く染まる大きな核小体が見られるのもこの細胞の特徴です。
核が大きく、核小体も大きいのは、細胞の増殖が盛んなことを意味しています。
それはそうですよね。傷口を早くふさがなくてがならないので、ものすごい速さで増えるからです。
このような修復細胞には時々遭遇します。
細胞診を始めた頃は、核も核小体も大きいので、、、、“悪性の細胞?” と驚きましたが、細胞が平面的に並ぶことと核小体が大きいことの特徴を覚えていれば診断を誤ることはありません。

前にも述べましたが、子宮の入り口(子宮膣部)では、外反(エクトピー)といって、月経がある女性では子宮頸部の内側で粘液を作る円柱上皮細胞が外側にめくれてきます。一層の細胞ですので性交や膣炎などで簡単に壊れてしまいますので、日常結構目にする細胞です。
従って、この細胞が見つかったとしても特に問題にはなりません。

黄色いおりものが心配

「子宮頸がん細胞診検査では異常を認めませんが、おりものが黄色いことが心配で、腟内フローラチェックを受けることにしました。
臭いは特に心配はなく、かゆみなどで困ることもありません。

Dr シイナラボのサイトを見ていたら、結構悩んでいる方が多いことや、婦人科を受診しても先生の診断と食い違うこともあるようなのでこの検査を受けることにしました。

原因が分かるといいのですが?」

それでは早速顕微鏡を見てみましょう。

黄色いおりものは感染症をチェック

写真左(上)の弱拡大では、ゴマ粒の様に見える白血球が若干増えています。
弱い腟炎を起こしているという状況です。
拡大を上げた右(下)の写真の中央付近には薄いオレンジ色に染まる酵母状の菌と細長い枝の様に見える菌糸が確認できます。
これでおりものが黄色い原因がはっきりしました。
診断名は「腟カンジダ症で若干腟炎を伴っている」状況です。

細胞診で感染症を診断できるのはあっという間ですね。

原因がはっきりしてよかったですね。
膣カンジダ症は、風邪や膀胱炎などで抗生物質を服用した後(菌抗体現象)や腟内に糖分が多い環境になる妊娠時に発症することが多いですが、免疫力が低下しているときも時々見られ、日常よく遭遇する感染症です。

症状で最も特徴的なのが“強烈なかゆみ”で、外陰部を搔き崩してしまう人もいます。
また、おりものは白いことが多く“オカラ状”“カッテージチーズ状”、“かゆ状”などと表現されます。
しかし今回の様に腟炎を起こしている場合は黄色いおりものになります。
この方も言われているように、お医者さんでも内診時の所見だけでは見誤ることがあります。
アイラボに細胞診を依頼されている先生方でも、「細菌性腟症はありますか?」という方が実はカンジダ症であったり、時にはその弱だったりもします。ましてや一般の皆さんが症状だけで正確な診断ができるかというと決してそうではありません。今回の様に黄色いおりものが心配の場合、カンジダ症だけでなく淋菌やクラミジア、さらにトリコモナスの感染がある場合もあります。従って、先ずは自分でできることは自分で挑戦してみましょう。黄色いおりものは感染症が潜んでいることに注意!
セルフメディケーション、自分の健康は自分で守りましょう。
分からない時は、お気軽にアイラボの無料相談をご利用ください。これもセルフメディケーションです。

コイロサイトが一杯!

HPV感染細胞が一杯!
HPV感染の最も特徴的所見はこのコイロサイトーシスです。
細胞の核周囲が白く抜ける現象です。
HPVのウイルスが核の中で増えているため、核と細胞質との交流が不全になり(変性におちいりこのようる)、このような独特の形態を示すと考えられています。
HPV感染例でも、こんなにたくさんのコイロサイトが集塊を作って見られるのは珍しいです。

早速細胞を見てみましょう。

典型的なコイロサイト

HPVに感染し、たくさんの細胞の核の中でウイルスが増殖しています。
この症例は、このような細胞が顕微鏡の視野を動かく度に出てきます。
かなり激しくウイルスが増えているのでしょうね。
この時期はHPVの感染症という段階で、ヒトの遺伝子にHPVの遺伝子は組み込まれていません。なので、細胞診断的にはいくらたくさんこのような細胞があっても軽度異形成(LSIL)と診断されます。
女性の子宮頸部に関してはHPV感染のおおむね90%は自然に排除されるといわれていますが、残りの10%ほどは持続感染してその一部が子宮頸がんへと進みます。
従って、検診ではHPVに感染しているかどうかを調べ、感染している場合現在どのような状態なのかを調べることになります。
細胞診による子宮頸がん検診は、HPVの感染があるかどうかよりも、今どんな異型細胞が出ているかを調べる検査です。ほぼ正常な細胞だけならNILM(ニルム)、由来がはっきりしない(HPVの感染も否定できない)細胞が出ている時はASC-US(アスカス)、明らかなHPV感染が見られ、軽度の扁平上皮内病変が疑われるときはLSIL(ローシル)、それ以上(前がん病変)をHSIL(ハイシル)といった具合に分類します。
私が細胞診を始めた50年も前、HPV感染とかハイリスク型HPVなんて言葉は全くありませんでした。それもそのはず、子宮頸がんの原因そのものが分かってなかったからね。
自分自身がこの流れの真っただ中で細胞診をやっていたのですが、その頃から子宮頸がんとHPVの関係が分かっていたかのような錯覚に陥ります。
今では細胞診はさらに進み、最も危険なHPV16型は、コイロサイトーシスの変化は示さないことも明らかになってきました。
また一歩、子宮頸がんの謎も明らかになりました。
16型の感染があっても、コイロサイトーシスは伴わないんです。
杏林大学保健学部、大河戸光明先生の発見です。
私は75歳、細胞診を始めて53年になります。子宮頸がん撲滅を目指し大いに貢献してきた細胞診断学ですが、科学の発展と共に子宮頸がん検診の最前線は徐々にHPV検査にバトンタッチされていくものと思います。しかし、HPV感染から癌に至るまでの過程の検査法としてはこれからも重要な検査法であり続けるでしょう。でも、私はパパニコロウさんが世に送り出した“細胞診断学”はもっと広く女性の健康やQOL(生活の質)の向上に広く貢献すると考えています。なぜなら、婦人科細胞診は“最も手軽で、最も安く、最も信頼性の高い感染症の総合的な検査法” だからです。これからも視野を広め、女性のセルフメディケーションの身近な検査法として発展させていくのが私達の使命と考えています。

細胞検査士の使命感

先ずは画像を見てください。
この細胞は、医師採取による子宮膣部細胞診に見られました。
私のブログをいつも見ていただいている人はもう分るかも知れませんね。

実は、このケース、ある細胞検査士の方がNILMと診断したものです。
今日は、なぜそんなことになってしまうのか、その問題点を考えてみましょう。

その前にDrシイナの診断は「LSIL」です。

細胞検査士はどうあるべきか?

扁平上皮細胞が大きくなる原因には3つのことが考えられますが、共通していることは“DNA合成阻害”が考えられます。一つの細胞が2つに分裂するためには、細胞も核内の遺伝子(DNA)も2倍にならなければなりません。しかし何らかの理由でDNA合成が阻害されると、準備ができた細胞(細胞質)は核に対して「まだ準備できないの? まだ?、まだ?」といった具合に細胞だけがどんどん大きくなってしまうのです。

その第1は、“放射線治療後の細胞”です。放射線の照射により、核内でのDNA合成が阻害されることで細胞が大きくなります。
第2は、“葉酸欠乏状態”です。葉酸はDNA合成に必須な物質であり、これが欠乏すると扁平上皮細胞は大型化します。以前このブログで「細胞が巨大化する」で紹介しましたが、海外青年協力隊の一員として中央アジアの国に細胞検査士として派遣された方からの国際電話で、日本人に比べて扁平上皮細胞が大きいんだけどなぜですかという質問がありましたが、それこそ葉酸欠乏によるものなんです。
第3は、HPV感染細胞です。HPVは感染した細胞の核の中で増殖しますので、通常のDNA合成が阻害されるため、細胞が巨大化するのです。このケースはまさにこのHPV感染に伴う変化であり、また、この変化がHPV感染の診断に重要な所見になるのです。

従って、私はこの所見をもって、(HPV感染が明らかですので)LSILと診断します。
このケースの様にNILMと診断してしまった原因は以下の様に3つほどが考えられます。
その一、細胞検査士が単純にこの細胞を見落してしまった。
その二、未だにベセスダ分類に移行できず混乱を招いている。
その三、細胞検査士の認識不足でHPV感染が分からなかった。
今回のケースの原因は「その一」であった可能性が高いのでこの問題について考えたいと思います。
いつも紹介していますように、細胞診の検査精度は「(医師が)適切に採取する」「(検査技師または細胞検査士が)適切な標本を作製する」「細胞検査士が適切に顕微鏡の観察(我々はスクリーニングと言っています)を行う」この3つ全てが適正に行われて時に最も高い精度が得られます。
このケースでは「医師は適正に採取」し、「細胞検査士が適正な標本を作製」しましたが、最後の細胞検査士が「適切なスクリーニングを行わなかった」(その一)の結果です。
多くの人がかかわるこの検査の最後を締めくくるのが細胞検査士です。
この一枚の標本には受診者(患者)の思い、その家族の思い、そしてここまでに関わった多くの人達の知識、技術、経験が凝縮し、「最後頼むぞ!」そんな思いがこもった一枚のガラスなのです。
この長い駅伝のアンカーを務める細胞検査士には “一つの細胞でも見逃さないぞ!” そんな使命感が求められるのです。
私は75歳でアイラボの社長ですが、染色はすべて私が責任をもって行っています。標本の作製は相棒の藪崎が時には「もっとちゃんととって来いよ」とぼやきを入れながらやっています。
だから標本が出来上がった時、「次頼むね」と本心そう思います。

人は間違いを起こす動物ですので、細胞検査士ありかた委員会の最初の仕事に「細胞検査士賠償責任保険(臨床検査技師責任賠償保険)」への加入を行いましたが、これにお世話にならないよう日々頑張っています。