腟内のヘルペス発症は無症状

ヘルペスは唇や性器に水疱を形成し、とても痛い感染症です。
初めて性器にヘルペスが感染した時は、あまりの痛さに歩行困難になることもあります。
ヘルペスウイルスはいったん体内に侵入すると自然に排除されることはありません。
神経節細胞の中に潜んでしまうのです。そしてその人の体力や免疫力が落ち来た時(真夏に海水浴に行って泳いだり強い紫外線に当たると体力は消耗します。また、風邪で高熱が出た時も体力は著しく消耗して免疫力が低下します。)に神経を伝わって“再発”します。

初めて感染した時に比べると症状は軽くなりますが、再発病巣の水泡の中にはたくさんのヘルペスウイルスがいますので、接触した人に容易に感染します。
再発部位が外陰部や亀頭であれば、再発していることが容易に分かりますが、腟の中だと痛みなどの症状は全くないので、再発していることが分かりません。

今回のケースは、子宮頸がん検診を受けた方で、内診結果は特に異常はない“no problem”でした。

再発例は核内好酸性封入体が見られる

左(上)の弱拡大では、白血球が増えていることが分かります。
(でもこの程度の白血球の増加では、多くの場合内診の評価はno problem です。)

白血球が増えている(腟炎がある)と、おりものは黄色くなります。
ヘルペスが腟内で再発している場合は、痛みなどの自覚症状はなく、“黄色いおりものが若干増える程度”なので、分からないことが多いのです。

黄色いおりものは、何らかの原因で腟炎を起こしているサインです。
トリコモナスや淋病、クラミジアなどの性感染症でもおりものは黄色になることが多いです。
腟カンジダ症は白いおりもの(オカラ様、かゆ状、カッテージチーズ様)が特徴ですが、炎症が加わる(白血球が増える)と黄色いおりものになります。

右(下)は拡大を上げた写真です。
複数の核が一つの細胞の中に押し合うように見られますが、これは細胞融合によっていくつかの細胞が寄り集まって一つの細胞の様に見えるのです。その核の中には(この写真では)黄色味を帯びた好酸性核内封入体(染色によっては赤っぽく染まります)が見られ、これが再発の特徴です。
ヘルペスに一度感染してしまうと、(感染させてしまうから)と言う理由で性交渉が消極的になってしまうといった相談が結構あります。また、パートナーに感染したことがあることを伝えるべきか?、内緒にしておくべきか?と言った相談もあります。

その時の状況で、適切に判断して頂きたいところですが、とは言っても現実に直面すると難しい問題があります。
あるケースですが、数ヵ月前に初めてヘルペスが発症し、強い痛みに大変苦しみました。そのことがあってそれまでお付き合いしていた人とは別れましたが、最近新しい彼が見つかりました。まだ性的な関係はありませんが、近い将来そうなると思いますので、新しい彼に自分がヘルペスに感染した(保菌者)であることをことを告げるべきでしょうか?それとも内緒にしておいた方が良いのでしょうか?という相談でした。

この質問にに対して、私は以下の様に回答しました。
『もし新しい彼に真実を伝えた場合、あなたが体験したように極めて厳しい症状に見舞われ、しかもヘルペスウイルスは自然に排除されないため保菌者になるわけですから、それは怖いと言って去っていく人もいるかも知れません。しかし、もし本当にあなたを愛してくれている人だったら、ヘルペスは二人にとって共通の持病になるので、お互いに再発しないような生活習慣を身につければいいのだからそんなこと心配しなくてもいいよ。もし僕も発症したら、ちゃんと治療するから大丈夫だよ。と言ってくれる人もいると思います。私だったら後者を選びますが、その判断は貴女が決めるしかないね。』

今回のケースの様に、腟内で発症している場合は症状だけでは気が付かないことが多いわけですので、オーラルセックスはできるだけ避けたり、手や指の汚染対策に十分配慮すること、また、コンドームの正しいい使用でかなりの確率で再発を防ぐことができますので、それ程悲観的になる必要はないと思われます。
自身の病と正面から向き合い、可能な限りの感染防御策を学び、それを習慣にしましょう。
セルフメディケーション! 二人の愛で共通の病に向き合いましょう。