コイロサイトが一杯!

HPV感染細胞が一杯!
HPV感染の最も特徴的所見はこのコイロサイトーシスです。
細胞の核周囲が白く抜ける現象です。
HPVのウイルスが核の中で増えているため、核と細胞質との交流が不全になり(変性におちいりこのようる)、このような独特の形態を示すと考えられています。
HPV感染例でも、こんなにたくさんのコイロサイトが集塊を作って見られるのは珍しいです。

早速細胞を見てみましょう。

典型的なコイロサイト

HPVに感染し、たくさんの細胞の核の中でウイルスが増殖しています。
この症例は、このような細胞が顕微鏡の視野を動かく度に出てきます。
かなり激しくウイルスが増えているのでしょうね。
この時期はHPVの感染症という段階で、ヒトの遺伝子にHPVの遺伝子は組み込まれていません。なので、細胞診断的にはいくらたくさんこのような細胞があっても軽度異形成(LSIL)と診断されます。
女性の子宮頸部に関してはHPV感染のおおむね90%は自然に排除されるといわれていますが、残りの10%ほどは持続感染してその一部が子宮頸がんへと進みます。
従って、検診ではHPVに感染しているかどうかを調べ、感染している場合現在どのような状態なのかを調べることになります。
細胞診による子宮頸がん検診は、HPVの感染があるかどうかよりも、今どんな異型細胞が出ているかを調べる検査です。ほぼ正常な細胞だけならNILM(ニルム)、由来がはっきりしない(HPVの感染も否定できない)細胞が出ている時はASC-US(アスカス)、明らかなHPV感染が見られ、軽度の扁平上皮内病変が疑われるときはLSIL(ローシル)、それ以上(前がん病変)をHSIL(ハイシル)といった具合に分類します。
私が細胞診を始めた50年も前、HPV感染とかハイリスク型HPVなんて言葉は全くありませんでした。それもそのはず、子宮頸がんの原因そのものが分かってなかったからね。
自分自身がこの流れの真っただ中で細胞診をやっていたのですが、その頃から子宮頸がんとHPVの関係が分かっていたかのような錯覚に陥ります。
今では細胞診はさらに進み、最も危険なHPV16型は、コイロサイトーシスの変化は示さないことも明らかになってきました。
また一歩、子宮頸がんの謎も明らかになりました。
16型の感染があっても、コイロサイトーシスは伴わないんです。
杏林大学保健学部、大河戸光明先生の発見です。
私は75歳、細胞診を始めて53年になります。子宮頸がん撲滅を目指し大いに貢献してきた細胞診断学ですが、科学の発展と共に子宮頸がん検診の最前線は徐々にHPV検査にバトンタッチされていくものと思います。しかし、HPV感染から癌に至るまでの過程の検査法としてはこれからも重要な検査法であり続けるでしょう。でも、私はパパニコロウさんが世に送り出した“細胞診断学”はもっと広く女性の健康やQOL(生活の質)の向上に広く貢献すると考えています。なぜなら、婦人科細胞診は“最も手軽で、最も安く、最も信頼性の高い感染症の総合的な検査法” だからです。これからも視野を広め、女性のセルフメディケーションの身近な検査法として発展させていくのが私達の使命と考えています。