パートナーが検診で高度異形成と診断され、私が原因と、、、

アイラボの無料電話相談に、『彼女が子宮頸がん検診で異形成と診断され、俺が原因と怒っているので相談しました。』という男性。話を聞くと、5年ぶりに子宮頸がん検診を受けた30代前半の彼女さん。それまで数回受けた検診では何もなかったのに、あなたと付き合い始めてからこんなことになった(最近結構多い相談です)。検診の結果はHSILで、精密検査を受けるようにとあったようです。頭に来て一年半前から付き合い始めた俺に、「貴方がHPVをうつした!」、、、と言うんですが?確かに彼女と付き合う前に3人程と関係を持ったことはありますが、風俗に行ったことはありません。本当に私がうつしたんでしょうか?
そんな男性の悩みです。

私達の無料相談は“犯人捜し”のためではありませんが

『悩みを聞いて、二人が仲良く生活できるための無料相談です。』と言いながらもご相談には応じています。
このような男性からの“ご相談”や“検査キット購入理由”は結構あるようです。
“子宮頸がんの原因がHPVの感染”によることが国民に浸透してきた証と思います。
淋菌やクラミジアなどのようにおりものの異常や、痛み、さらにかゆみといったいつもと明らかに違う症状が現れると、相手を疑ったり逆に疑われたりしますが、ハイリスク型HPVの感染があっても男女共に全く症状が出ないため、疑われることなく広く男女の間で感染が広まっています。たとえ子宮頸がん検診で“ASC-USやLSIL”と診断されても、(原因が分からなかったので)“貴方からうつされた”的なトラブルはありませんでした。

しかし、現在は違います。
今回のケースの様に、女性の場合は子宮頸がん検診で異常が見つかると「いつうつったのか?」「誰からうつされたのか?」と考えるようです。そして時にはトラブルに発展することもあるようです。
この写真は、他のブログでも使用したものですが、HPVの感染からHSILになるまでを追跡した結果です。
私達の経験では、ハイリスク型HPVに感染しても、すぐにHSILに相当する細胞は検出されないのです。
この写真では限られた期間を切り取ってみているようなものですので、その前の状況は分かりません。

HPVに感染する前から追跡したケースを見てみましょう

一番左側の表は2008年4月(検査時期901)から細胞診検査を始めたケースです。2009年1月になって初めてASC-US相当の細胞が検出されました。このケースはHPV検査を実施していませんので、ASC-USになった時点を感染時期とした場合2010年10月(検査時期1010)までは、HSILの存在が否定できない細胞(ASC-H)ですら検出されません。私達はこの時期をHPV感染の第一段階と考えています。つまりこの時期は淋菌やクラミジアなどの感染と同じように単なるHPV感染症の位置づけで考えています。
中央の表でも同じように見ることができます。2009年1月(検査時期901)から2011年1月(検査時期1101)の間をHPV感染の第一段階と考えることができますが、2011年2月に初めてASC-H相当の細胞が検出されています。初めての感染からおよそ2年間はHPV感染の第一段階であり、この間は異型細胞が出たり出なかったりを繰り返します。
最も右側の表は2008年11月(検査時期811)にASC-H(HSILの存在が否定できない)が検出され、2010年4月(検査時期1004)までの間はNILM、ASC-US、ASC-H、HSILが出たりでなかったりを繰り返しています。私達はこの間をHPV感染の第2段階と考えています。
HSILは中等度異形成、高度異形成、上皮内癌相当の細胞が見られた時に診断されます。LSILは軽度異形成相当の細胞が見られた時の診断で、前述のようにHPV感染症の位置づけです。しかし、中等度異形成以上は感染症の域を超え、ヒトの細胞の中にHPVの遺伝子が組み込まれた状態になり、感染症から腫瘍(がんの方向に向かう増殖)の性格をもった段階と考えられています。従って、感染と腫瘍の両方の細胞が出現します。
2010年4月以降は自己採取法で採取された検体でもASC-H以上の異型細胞が毎回検出されるようになります。
私達はこの時期をHPV感染の第三段階としています。

さて、話を本題に戻りましょう

質問の内容をもう一度整理しておきましょう。
男性の方は1年半前からお付き合いを始めたと言っております。また女性の方は過去5年間は子宮頸がん検診を受けていなかったようです。
私達は日常無料相談を実施していますが、その理由は、女性にとって婦人科の敷居が高く、おりものや臭い、痛み、かゆみなどの症状があってもついつい我慢をしてしまうことで、病気の発見や治療が遅れてしまいますので、先ずは気軽に相談できる場が必要だと考えたからです。この無料相談は犯人探しのためではありません。皆さんがお互いの誤解を解き、これからも仲良く過ごせるために役立てばと考えています。

『一年半前から付き合い始めた俺が原因でHSILになってしまったのでしょうか?』との問いに対し、前の表で説明させて頂いたように、「その可能性はゼロではないかも知れませんが、頻度的には少ないと思います。」という答えになるでしょう。
また、男性が言う『彼女さんは5年間子宮頸がん検診を受けていなかった。』ということから考えれば、「お付き合いされる前に感染していた可能性はあるかも知れませんね。」ということも考えられます。

あくまで可能性の話しであって真実は不明

今回の男性からの質問に対しては、私達がこれまで経験したことやそれを学会で発表した内容を踏まえ紹介しました。その結果はあくまでも“可能性の域を脱していない” のです。

HPV感染についての対応には、「(今お付き合いしている)貴方にうつされたと豪語する女性」「以前にお付き合いした人もいるのでと冷静に対応できる女性」「大切な人にHPVを感染させたくないという男性」「お付き合いしてもいいけどHPVに感染していないか調べてくださいという女性」「俺がうつしたと言われて無実を証明したいという男性」「(俺がうつしたかどうかは分からないけど)勇気を出して誤った男性」、、、といったように対応は様々です。

さあそんな時あなたはどう対応しますか?

人生誰にも過去があり、そして新しい出会いがあります。
新しい人生を歩み始めた二人にはそれら過去を乗り越えて二人にとっての“幸せ”を築いて頂きたいものです。
今回のご相談内容の場合、(もし二人がこれからもずっと一緒にいたいのであれば)こんな対応はどうでしょうか?

今回、子宮頸がん検診を受けたらHSILと診断されて精密検査を受けることになっちゃった。』「それは俺が原因なのかな? そうだとしたらごめんね。」『いや、いつうつったのか分からないけど今見つかってよかった。近いうちに婦人科に行ってくるね』「そうだね。早く見つかれば悪いところだけ治療すればいいみたいだから、むしろ良かったよ。」『うん。だからあまり心配しないでね』、、、如何でしょうか?

セルフメディケーション! 子宮頸がんはHPV感染対策から

HPVに感染しないためには、対策はいろいろあります。
そもそも、どういうメカニズムで感染するのでしょうか?
例えば、HPVがたくさん存在する腟分泌物を男性性器にそっと塗ってみたとします。
実はこれでは感染しないのです。セックスは性器と性器が直接接触し、更に擦るという物理的刺激が加わります。
そのことによって目に見えない小さな傷がつき、HPVはその傷口から侵入して感染が成立します。
従って、コンドームを使用することで性器の大半は守られますが、コンドームから外れる男性性器の付け根の部分は危険にさらされます。従って、コンドームの使用は完璧には防御できませんが、かなりの確率で守れる可能性はあります。最も有効な方法は男女共にワクチンの接種ですので、真面目に検討する意義はあると思います。