HPV検査が陰性なのに なぜHSIL?

“クリニックからの問い合わせ内容”
「今回アイラボさんにお願いした細胞診結果は“HSILで中等度から高度異形成が推定されます。”という結果が来ましたが、
1っカ月前に他のクリニックでHPV検査を受けていますが、「陰性」の結果を頂いている患者さんです。そんなことがあるのでしょうか?」

結論的に申し上げると、“あり得ます。”
受診者にとっても、検査を依頼したクリニックの先生にしても、「そんなことあるの?何かの間違いではないのか?」と思われるのも当然かと思います。

HPV検査には、多くの国で2つの方法が採用されていますが、感度が低いことで検出できないことや、13種のハイリスク型の中の一部が検出できないものなど、検査で全て検出できるわけではありません。

従って、信頼度は100%ではなく95%程度と評価されています。

婦人科の先生が疑問に思ったケースはこんな感じ!

細胞診でHSILの診断に否定的なご意見を持たれる方は少ないと思います。
実は、このような問い合わせを頂いたのは過去にも数件ありましたので、それらを含め、当社の研究部門のお手伝いを頂いている杏林大学保健学部の大河戸光章先生が開発した「高感度多種HPV検出法 Uniplex E6/E7 PCR」を用い、39種HPVの型分析を行いました。

その結果、検索した7例からハイリスク型として分類されていない82型(中間群)が検出されました。
その後も当社では3例の同様のケースを確認しています。

私達はこのような経験から、HPV単独での検診には危険が伴うため、細胞診とHPV検査の併用を推奨しています。
子宮頸がん検診は医師採取が基本であり、自己採取法は検査機関により異型細胞の検出精度が大きく異なるため、推奨されていません。当社では、医師採取による子宮頸がん検診が苦手な人を対象に加藤式器具による自己採取法を提供していますが、この方法においても細胞診単独検査より、HPV検査を同時に行う併用検査「最新の子宮頸がん検査」を推奨しています。
どの検査もそれだけで100%安心できるものはありません。今回紹介したようなケースは決して多くはありませんが、“HPV検査が陰性だから安心!”とは言えないこともあることを知っておきましょう。

おりものが心配で郵送の検査を受けました

このブログでも紹介していますが、子宮頸がん検診はこれまで細胞診検査で行われてきましたが、細胞診検査の検査精度が徐々に下がってきているため(75%程?)、HPV検査がファーストスクリーニング検査として“推奨”されるようになってきました(検査精度95%と言われています)。
日本で子宮頸がん検診が軌道に乗ってきた頃、野田紀一郎先生は、子宮頸がん検診(細胞診検査)を受ければ子宮頸がんは100%救えると言われていました。私自身その言葉に共感し、子宮頸がん検診の受診率向上こそが子宮頸がん撲滅のキーポイントであると考えていました。なぜなら、その頃の子宮頸がん検診の受診率は25%ほどで先進国の中で最も低い状態でした。当時(2009年頃)厚生労働大臣であった舛添氏は、5年間で受診率を50%まで引き上げると豪語していましたが、いまだに達成されていません。
その間、細胞診検査の中身もかなり変わってきた気がします。採取法も綿棒からブラシ系へと変わり、自動標本作製装置の普及に伴い、細胞診の検査精度が上がったのかと思いきや、国際的にみても70%~80%と考えられています。
個人的には、ブラシ系採取器具の普及に伴い、強引に細胞を採取するため、細胞診そのものが難しくなっている印象はあります。「細胞診はどこに出しても同じだよ」といわれた先生がいましたが、私達は「ここにお願すれば安心」といわれる検査所を目指しています。
前置きが長くなりましたが、今回のケースを見ていきましょう。

自己採取はダメ!、、、と言うが?

今年春の子宮頸がん検診で“異常なし”という方が、おりものが気になってアイラボの“婦人科トータルセルフチェック”のキットを購入されました。このキットは、Drシイナラボ(アイラボ)を立ち上げた時一番最初に世に送り出した郵送検査キットです。加藤式採取器具で自己採取した検体をポストに入れるだけで「子宮頸がん細胞診検査、淋菌、クラミジア、トリコモナス、カンジダ、細菌性腟症、膣炎」の7項目を検査するものです。細胞検査士ありかた委員会を立ち上げ、細胞検査士を教育していた私が「自己採取による子宮頸がん検診はダメ!」という風潮の中で、“子宮頸がん細胞診検査” 単独で世の中に出す勇気はありませんでした。そこで最初は“婦人科トータルセルフチェックの中の一項目”としたわけです。
もちろん現在は「子宮頸がん細胞診検査」キットとして提供しています。
こんな葛藤の中で生まれた(婦人科トータルセルフチェック)キットです。
早速細胞を見てみましょう。

左上は弱拡大像です。検査を受けていただいた方が心配されていたように、白血球の増加が見られ若干腟炎を伴っているようです。そんな中に何やら核が大きくなった細胞が見られます。
標本を見ていくうちに、LSIL(=軽度異形成)相当の細胞を認める中に、下段に示すやや小型で核の占める割合が大きな細胞が多数見られました。中には角化(オレンジ色に染まる異型細胞)したものも見られます。全体的に核は迫力に乏しいため、ASC-H(HSILの存在も否定できない)と診断しました。
HPV感染に特有なKoilocytosisは見られませんが、核が溶けたような所見もありHPV感染は明らかと思います。更に、Koilocytosisが見られないとなると、16型、18型、52型の感染も考慮しておかなければ、、、
先ずは、婦人科トータルセルフチェックを受けて頂いた方には「早く見つかってよかったね」と言いたいです。今年春の子宮頸がん検診で異常はなかったので“おりもの&臭いの検査(婦人科トータルセルフチェックから子宮頸がん細胞診検査を除いたキット)”でよかったのではないかと思いますが、この方はあえて「婦人科トータルセルフチェック」を受けられました。正解でした。勿論、「おりもの&臭いの検査」を受けられたとしても、「子宮頸がん細胞診検査」の追加検査をお勧めしています。
子宮頸がん細胞診検査は勿論“医師採取”が基本であることに変わり有れませんが、開業以来20年が過ぎた私達の経験から、医師採取が「恥ずかしい、忙しい、面倒」という理由で検診を受けない方がかなり存在することが受診率が上がらない要因と考えています。検診機関の中にはそんな方のために「自己採取の方法もあります」と“小さな声で”伝えて頂ける施設もありますが、優しさですかね?
でも、HPV検査は自己採取でも精度的には全く問題はないと思われますので、今後の普及が待たれます。
セルフメディケーション!自分の健康は自分で守るの典型例です。どんな検査を受けても100%安心というわけではありません。自分の体のことは誰より自分がよくわかっているのです。
不安なことがあったら先ずは相談することから始めましょう。

やはりHSILが潜んでいた

前回、HPV感染のケースで、大型巨細胞が出現した記事を書きましたが、またこんな細胞が!
本当にLSILでいいのかな?、、、と、思いきや、やはり潜んでいました。見つかってよかった。
そんな感じです。

私達アイラボでは、病院から依頼される医師採取標本は25×25mm(625㎟)の標本を作製します。また、加藤式器具で採取された自己採取検体は、25×36mm(900㎟)の範囲に細胞を塗抹します。医師採取検体はSurePath標本のおよそ5.5倍、ThinPrep標本のおよそ1.6倍になり、自己採取標本ではSurePath標本のおよそ7.9倍、ThinPrep標本の2.4倍の細胞を観察していることになります。

目立つ細胞に目をとらわれていると、より悪い細胞を見落とす危険性が出てきます。
今回紹介するケースはアイラボの標本ですが、ごくわずかなHSIL相当の細胞が見られたケースです。
慎重な観察(スクリーニング)を怠ると、LSILとして報告される可能性があります。

早速見てみましょう。

LSILとHSILでは雲泥の差

最初に目に飛び込んできた細胞は上の写真です。
これらの細胞は、前回紹介した細胞とほとんど同じ巨細胞化したHPV感染細胞です。
このような細胞だけなら、HPV感染でLSIL(軽度扁平上皮内病変=軽度異形成)ということになりますが、標本内の数か所に下のような細胞集塊を認めました。中層から深層型の異型細胞で、HSILを考えなくてはいけないケースです。しかし異型細胞が少ないこともあったので、ASC-H(HSILの存在も否定できない)と診断しました。

観察する細胞が少ない標本では、異常な細胞の割合も少なくなるので、発見できる可能性はさらに低くなります。
最下段は、アイラボの標本と自動標本作製装置によるものの比較です。
検体の採取法や標本作製法は医療機関によって様々です。
検査を受ける側からすれば“どこで検査しても同じ”と思うでしょうが、検体の採取も綿棒や特殊な形をしたブラシなど様々です。アイラボは産科を標榜されている先生方は「綿棒採取」それ以外はサーベックスブラシを使用している先生が多いようです。

綿棒採取は精度が悪いと言われていますが、その理由は先生方が綿棒で採取した検体を直接スライドガラスに塗抹すると、せっかく採取された細胞が綿棒側に残り、スライドガラスに肝心の細胞が十分塗抹されないことによります。従って、アイラボでは、先生方が採取した綿棒をそのまま保存液に入れてアイラボまで搬送し、アイラボで細胞検査士が綿棒から細胞成分全てこき落としているため、検査精度に影響することはありません。当然のことですが、子宮頸管内を精査したい時はブラシを利用されていますが、それは医師の判断によります。
一方、より強引に細胞を採取するサーベックスブラシは、細胞を採取するという点では優れていますが、子宮腟部、
扁平円柱接合部(SCJ)、子宮頸部領域の全ての細胞を掻き採ってくるため、細胞診断を難しくしている傾向があります。つまり、あまり異常ではない細胞も異常なのではないかとの心配からover diagnosis(過剰診断)する傾向にあるような気がします。
結果的に細胞診の精度の低下につながる可能性も否定できないのではないかと思います。

今回の記事は何やら専門的な話に陥ってしまいましたが、受診者の皆さんは、ASC-US以上の細胞が検出された時は医師の指示に従い、定期的な追跡検査を怠らないことが大切と思います。
また最近、HPVの遺伝子検査が普及していますので、HPV検査で陽性の場合は感染しているHPVの型を調べておかれるのも、子宮頸がんに対する意識を持続させる点からも勧めています。アイラボでは「HPVタイピング検査」として高感度なUniplex E6/E7 PCR法で調べています。
このUniplex E&/E7 PCR 法は杏林大学保健学部大河戸先生のグループが開発した方法で、例えばいつもこのブログで見て頂いている1個の細胞からでも感染しているHPVの検出は可能なんです。最近、女性に優しい男性から注目されている検査です。自分の大切な人にはHPVを感染させない!これもセルフメディケーション!

HPV感染細胞がすごすぎない?

もう50年以上もこの仕事をしていますが、こんなに激しい異型細胞が標本のあちこちに見られる事ってあっただろうか? HPVの性格が変わってきたのかな? 皆さんご存じのように、コロナでも色々変異しますしね。
昔、こんな異型の強い細胞が出てきたら癌を疑っていたかもしれません。

標本を観察している時に、あまりにもすごい異型細胞に遭遇すると私でもそれに目を奪われてしまいます。冷静に!、冷静に!もっと怖いやつが潜んではいないか?、、、と、いつも言い聞かせて観察(スクリーニング)しています。

今日もそんな細胞との出会いがありました。
それではじっくり見ていきましょうか。

ウイルスってすごいね!

今回は角化(オレンジ色に強く染まる)細胞で、超大型の異型細胞を紹介します。
写真上の左(一番上)は弱拡大ですが、周りに見られる細胞に比べ数倍以上の大きなオレンジ色の細胞が見られます。拡大を上げてみると、その中央には複数の大きな核が見られます。
次の写真も同じように巨大な細胞でいくつかの核が存在します。

こんな驚くような細胞ですが、私達はLSIL(HPV感染を伴う軽度異形成)と診断します。
LSILとは“軽度扁平上皮内病変”という位置付で、がんの方に向かう腫瘍性の病変ではなく、淋菌やクラミジアなどと同じく感染症としての位置づけです。女性の場合、おおむねその90%は自然にいなくなります。残りの10%程で感染が持続してHSIL(高度扁平上皮内病変)へと進みます。
LSILと診断された場合は、細胞診検査で “HPV感染が明らか” になったわけですので、その後は定期的に追跡検査が必要になります。
3ヵ月から半年に一度婦人科を受診して細胞診検査を受けることになります。
その第一の目的は、HSILへと進行していないかをチェックする分けですが、軽度異形成の段階では異常な細胞が全く発見できないこともありますので、一度NILM (異常な細胞が見られない)と診断されても、油断することなく定期的なfollow-up が大切になります。
大変面倒なことですが陰性化するまでは主治医の指示に従いましょう。
検診でせっかく見つかってもその後病院を受診されない方もおります。
セルフメディケーション!あなたの健康は貴女しか守れません!

自己採取法は子宮頸部腺がんの早期発見は苦手

子宮頸がんを対象にした“子宮頸部細胞診”で最も厄介なのが、子宮頸部腺領域の異型細胞です。
特に問題となるのは“子宮頸部腺がん”を見落とさない業務です。
そのために先ず大切になる点は「適切な細胞採取」です。これは採取する医師の責任が問われます。検査精度で大切な二つ目は“適切な標本の作製”ですが、特に粘液成分が多い検体として提出された場合に問題になります。私達のアイラボでは独自の保存液に検体を採取し、細胞検査士が標本を作製しますので、検体の条件に合わせて標本を作製しますので大きな問題にはなりませんが、自動標本作製装置を使用して標本を作製する場合は大変厄介になります。

アイラボでは、医師採取が苦手な方に自己採取法による検査を提供していますが、子宮頸部腺がんの場合、病巣が腟の内側に露出していれば検出できる可能性がありますが、採取器具が届かない少し奥に発生した場合には早期の発見が困難になりますすので、基本的には子宮頸部腺がんを検査の対象にしていません。

今回紹介する“子宮頸部腺がんを疑わせる”症例はどんな細胞が見られたのでしょうか?
早速それら細胞を見てみましょう。

細胞が塊で見えます。

左上(一番上)は加藤式自己採取器具を挿入した時の腟と子宮の入口(子宮膣部)の位置的関係を示しています。
通常の子宮頸がん(扁平上皮癌)は主に青色で示された子宮腟部に発生しますので、自然に剥がれて腟内に溜まった細胞と青色の部分をこすって採れた細胞で調べることは可能です。しかし、青色より少し中に入った子宮頸管内やもっとその奥の子宮体内膜から新鮮な細胞を採取することはできません。従って、基本的にはそのような場所にできるがんを対象にはしていませんが、本来奥にできた癌が青色の方まで広がってきて表面に露出した場合やがんの表面から自然に剥離して腟の奥に溜まっていた細胞は自己採取法でも採取できることがあります。(自己採取法を採用する場合はあくまで「早期の発見は困難」という条件を説明する必要があります。

写真右上(2番目)は自己採取法で子宮頸がん検診を受けた方の写真です。腟内は炎症もなく比較的きれいに見えますが、中央にいくつもの細胞が集まったように見える集塊を認めます。その部位を拡大したのが左下(3番目)の細胞です。核が何層かに重なり(重積性)、核の大きさがかなり違っています(核の大小不同)。また、少し見づらいのですが大きな核小体も存在しします。自然に剥がれ落ちた様に見えるこのような所見は腺がん細胞の特徴になっています。写真右下の細胞も同じ標本の中に見られましたが、かきむしって採取されたような比較的新鮮に見える異常な細胞です。この写真から想像できることは病巣が子宮腟部側に露出している可能性が考えられます。

このような異型の細胞が見られますので婦人科を受診される旨の報告をしました。
私どもは約20年間、自己採取法による子宮頸がん検診を受け入れてまいりました。
今回のような子宮の奥(子宮頸部腺領域)由来の異型な細胞は年度によって異なりますが平均0.2%程(1000件当たり2名)検出されていますが、直接病巣を擦過できない可能性があるため、基本的には検査の対象外としています。

今年になって子宮頸部腺がんが発見されたという報告を頂いたケースがありました。
その方は昨年の子宮頸がん検診は自己採取法で受け陰性(NILM)でした。一昨年は医師採取で検診を受けましたが
陰性(NILM)とのことです。昨年の標本を見直しましたが、腺がんを疑う細胞はもとより、痕跡すら見られないきれいな標本でした。この方は今年になって不正出血があったことで婦人科を受診し、子宮頸部腺がんが発見されたとのことです。現段階でその詳細は明らかでありませんが、その癌が早期であってほしいことを祈るばかりですが、このようなケースを少なくするためには検査だけではなく、受診者の皆さんにも子宮頸部腺がんに対する意識をもてるような情報の発信が大切であることを痛感します。

アイラボの報告書には、
注意1)この度の結果にかかわらず、既に閉経されている方で不正出血が見られた時は、婦人科を受診して体がん検査を受けましょう。
注意2)この度の結果にかかわらず、以前に比べ粘液様のおりもの(帯下)が増えた時は、アイラボの無料相談をご利用頂くか、婦人科を受診して下さい。※自己採取型の子宮頸がん検査は子宮の奥に発生したがんを早期に発見するのは困難なことがあります。
という注意事項を記載しています。
セルフメディケーション!!子宮頸がんの大部分は検診や自己管理(不正出血や粘液の異常)によって早く発見できます。面倒がらず、おかしい時には早めに婦人科を受診しましょう。

おりもの検査でこんな細胞が?

おりものや臭いの心配はないようですが、痒みがある方から「おりもの&臭いの検査」の依頼がありました。
痒みの自覚症状がある場合、最も一般的な感染症は腟カンジダ症で、膀胱炎や風邪などで抗生物質が処方された後(菌交代現象といいます)によく発症します。その他にはトリコモナスの感染やHPVの感染初期、ヘルペスや淋菌などの感染初期にも症状を訴える方がいます。また、妊娠時は腟内のグリコーゲン量が増えるため、カンジダとしては増えやすい環境になります。

この方は、「おりもの&臭いの検査(カンジダ、トリコモナス、淋菌、クラミジア、細菌性腟症)」では全て陰性でしたが、検体の適否判定用標本中に異型細胞(ASC-US~LSIL相当の細胞)が見られましたので、子宮頸がん細胞診検査の追加検査をお勧めしました。
検査結果をご覧になった受診者様からは“即”追加検査の依頼がありました。

今回はこのケースについて紹介します。

やはり追加検査は正解!

先ず、「おりもの&臭いの検査」時に見られた標本から見てみましょう。
写真上の左(一番上)では腟内に白血球の増加(炎症)はなく、トリコモナス、カンジダ及び細菌性腟症を疑う所見も見られません。しかし、写真の中央付近に核がやや大きなASC-US~LSIL程度の異型細胞が見られますので、しっかり細胞診検査はしておいた方が良いとの判断から追加検査をお勧めしました。

上の右(上から2番目)はアイラボで日常行っている顕微鏡観察用の標本です。
上は、アイラボに依頼される全ての検体(例えばクラミジアの単独検査でも)はこのような標本を作製して検体の適否判定を行うのと同時に、白血球の量を観察して炎症の有無を調べます。また、「おりもの&臭いの検査」や「腟内フローラチェックの検査」にもこのように作製した標本を使用します。
下は「子宮頸がん細胞診検査」用の標本です。観察する細胞は「おりもの&臭いの検査」のおおむね10倍ほどになりますので追加検査をすることで精度は更に高くなります。

新たに作製した「子宮頸がん細胞診検査」用の標本中には「おりもの&臭いの検査」用の標本に見られたASC-US~LSIL相当の細胞以外に、下の左右の写真に見られるような中層から深層型の異型細胞も観察されました。
最終的にはHSIL(中等度異形成以上)の存在が否定できないため、ASC-Hと判定し、婦人科の受診を勧めました。

追加検査を進めてよかった!!!
追加検査をお勧めするのはお金もかかりますので結構迷います。例えば、「子宮頸がん細胞診検査」を依頼された方の標本中に白血球が多数見られた(ひどい膣炎)時には「おりもの&臭いの検査」の追加をお勧めしますが、全てが陰性である事もあります。そんな時は心からすみませんという思いになります。そしてまた同時に“ではこの炎症の原因は何なのか”ということになります。そこでまた“このまま検査を終了すべきなのか、はたまたマイコプラズマやウレアプラズマなどの検査を進めるべきか?”葛藤が起こります。検査を受けていただいたお客様にとっては、「またかよ!」と思われるか知れませんが、私はやんわり「マイコプラズマチェック」をお勧めしています。
なぜかというと、最初の「子宮頸がん細胞検査」を依頼された時点で、“なんかおかしい?”と感じて検査を依頼される方が多いからです。そんな悩みを何とか解決してあげたいという思いを優先させます。
その結果、マイコプラズマやウレアプラズマが検出されて治療に進んだケースが多いことを度々経験したからです。
“セルフメディケーション!自分の健康は自分で守る。”
そんな皆さんのために私達の経験が生かせればアイラボをやっている意義があると確信しています。

中等度異形成は腫瘍化の始まり

HPVが感染してから子宮頸がんになるまでにはいくつもの段階があり、一般的には何年もかかります。
HPVの感染はどうして調べるのか? それは誰でも自宅で簡単に調べられます⇒ HPV検査です。HPV検査は危険なウイルスの感染があるかどうかを調べるだけですので、もし陽性という結果が出たら婦人科を受診して細胞診検査を受けることになります。
細胞診検査は、(今HPVに感染していると仮定した場合)現在どんな状況なのかを教えてくれる検査で、例えば、今は(感染しているけど)異常な細胞が見られない時は「NILM(ニルム)」、由来があまりはっきりしない異型細胞が出ている時は「ASC-US(アスカス)」、HPV感染が明らかな軽度異形成は「LSIL(ローシル)」、中等度異形成以上(前がん病変)は「HSIL(ハイシル)」などと診断できる検査です。子宮頸がん検診で広く行われている検査で、医師が採取しますので、婦人科を受診します。また私達は病院が苦手な人のために自己採取法も準備しています。
このケースは自己採取法で中等度異形成と診断したケースを紹介します。

腫瘍化の始まりか?

左(上)の弱拡大の写真を見ると、白血球の増加はなく腟内はとてもきれいです。
しかし、写真の中央には周りとはチョット違う細胞が見えます。私達は毎日顕微鏡でこんなチョットおかしな細胞があるかどうかを見ているんです。
拡大を上げた写真を見ると、あまり大きな細胞ではありませんが、相対的に核が大きく、濃く染まっています。
このように小さな細胞で核が濃く染まっていることがヤバいのです。専門的になりますが中層から深層型の核異常細胞と言って、中等度異形成があるかな?と推定します。
細胞診でそのように診断されると、次は病院で組織検査が行われます。おかしそうな部位から小さな組織(肉片)を採取してより詳しく調べます。
病理検査で中等度異形成が確定すると“CIN 2” と評価されます。
“CIN 1” は軽度異形成です。この軽度異形成と中等度異形成では考え方が全く異なります。軽度異形成はクラミジアや淋菌と同じようにHPVの「感染」に過ぎないのです。しかし、中等度異形成は「腫瘍化」の始まりなのです。
難しい説明は別の機会にしますが、より厳重なフローアップ(追跡)が必要になります。何を追跡するかと言えば、高度異形成や上皮内癌へと病変が進まないかをチェックするのです。
そして、その進み具合によっては医師の判断で円錐切除術という方法で異常な部位のみを切除することになります。従って、今は子宮頸がん検診と言っても“がん”を探しているのではなく、HPVの感染からがんになる一歩手前の状態を見つけているんです。
と言うことで、子宮頸がんから自分を守るためには“自らの意志で検診を受ける”ことが必須なのです。検査の方法も遺伝子検査の普及に伴い大変受けやすくなっています。私達は自己採取法を選択する場合はHPV検査と細胞診検査を同時に行う方法を勧めていますが、最も大事なことは、何らかの異常が見つかったら必ず精密検査を受けることなのです。頻度は少ないものの、子宮頸部の奥に発生する頸部腺がんをも見逃さないためです。セルフメディケーション!あなたの健康はあなた以外に守ってくれません。

淋菌/クラミジアの検査でも

郵送検査は基本的には医師が関与しない検査です。
なので検査を提供する側としては、検査前の相談、適切な検査キットの選び方、検査の実際、そして結果の報告方法、さらに検査後の相談窓口等々、考慮すべきことは多岐にわたります。
その中で、Drシイナラボ(アイラボ)が最も重視しているのが、検体の適否評価です。
本来なら、病院やクリニックを受診し、必要に応じて医師が検体を採取しますので、私達は適正に採取されていることを前提で検査します。しかし、郵送検査の場合、検査を受ける人が自身で採取するわけですから、送られてきた検体が検査に適しているかどうかをチェックすることが大前提となります。
アイラボでは、到着したすべての検体について検体の適否判定を行っています。
以前こんなことがありました。
男性の方から尿道の淋菌・クラミジアの感染を調べる検体が届きました。
いつものように、特別な染色をした標本を顕微鏡で観察すると、そこにはがん細胞がたくさん見られたのです。
検査を依頼した方も、私達にとっても全く予期せぬことが起こったわけですが、実はこのようなことは少なくありません。今回は、女性の方で腟内の淋菌とクラミジアの検査を行ったケースを紹介します。

こんな細胞が出現!

左(上)の写真は弱拡大ですが、写真の中央に気になる細胞があります。
右(下)の拡大を上げた写真ではオレンジ色に染まる核の大きな細胞が見られます。
私達は、このような細胞が見られた時は「LSIL」か「ASC-US」で迷います。
しかし、この度はASC-US相当と考えましたが、検査依頼者が淋菌とクラミジアの感染があるかどうかを知りたいわけですので、「異型細胞も見られますので、病院への受診、または子宮頸がん検査の追加検査をお勧めいたします。」として報告しました。
でも、病院やクリニックを受診して精密検査を受けてくれる方、実はそれほど多くないんです。
せっかく子宮頸がん検診を受けて、ASC-USやLSILと診断されても医療機関を受診しない人がいるんです。
何のために「検診」を受けたのか、何のために高いお金をかけての「郵送検査」をしたのかよくわかりません。
セルフメディケーション、結果的には淋菌やクラミジアの感染はなかったのですが、子宮頸がんに関係があるるHPVの感染が疑われたのです。ここからは自分で自分を守る作業です。頑張ってね。

綿棒採取の簡易キットにもこんな細胞が!

Dr シイナラボ(アイラボ)の検査キットの中には、コストパフォーマンスを考えた~シンプルキット~があります。綿棒で採取しますので、検査精度が著しく低くなるため「子宮頸がん検査」には使えません。
淋菌、クラミジア、トリコモナス、カンジダ、細菌性腟症、膣炎の有無を調べる「おりもの&臭いの検査」にもこの~シンプルキット~があり、定期的に検査が必要な方が多く利用されています。
アイラボでは、お受けした全ての検体を、特別な標本を作製して「適切に採取されているか」チェックしています。しかしそんな標本でもびっくりする細胞が目に飛び込んでくることがあるんです。

この段階でHPV感染が明白!

弱拡大では、白血球の増加はなく、とてもきれいな腟内です。
しかし、写真の中央にはオレンジ色とグリーンに染まる(多染性)細胞が見られます。
さらのこの細胞には複数の核が存在(多核)します。
細胞の多染性も多核もHPV感染の特徴なんです。
だからこの写真をもって“LSIL=軽度異型扁平上皮内病変(軽度異形成)”と診断できるのです。
このように、HPVの感染が明らかでLSILと診断された時、感染しているHPVの型を調べておくことで、感染が一時的か持続しているかを知ることが出来ます。またより危険なHPVなのかどうかも知ることが出来ます。(HPV検査の中には16型、18型、その他に分けて報告してくれる検査もあります)

このケースはたまたま綿棒で採取してこのような細胞が出てきたわけですので、“幸運”な例です。
これに満足しないで、この際しっかりと検査をしておくことが大切です。
婦人科を受診して子宮の入口(子宮頸部)をしっかり検査しておきましょう。
受診できない方は、「最新の子宮頸がん検査」だけでも受けておきましょう。
セルフメディケーション、ご自分の意志で「おりもの&臭いの検査」を受けた結果、異型細胞が見つかってしまった訳ですが、ここで面倒くさがらず、せっかく見つかったのですから、いずれかの方法で今の状況をチェックしてくださいね。

私達はASC-USとします

ASC-USはアスカスと言い、「意義不明な異型細胞」が出現しているという意味です。
つまり、由来がはっきりしないが、NILM「上皮異常は認めない(陰性)」でもなく、明らかにLSIL 「軽度扁平上皮内病変(軽度異形成)」と診断できる所見でもない時に分類されます。

少し専門すぎて分かりにくいと思いますが、子宮頸がん細胞診検査という目的からすれば、「HPV感染と断定できないが、HPV感染を否定できない細胞が見られた。」という意味です。

するとこのような細胞が出現!

左(上)のオレンジ色に染まる細胞は比較的大きな細胞で、周りに見られる正常の中層細胞に比べると、核が大きく、やや濃く染まっています。従ってNILMではないのですが、LSILとするには核の所見が乏しいのです。つまり、どっちつかずの変な細胞なんで「意義不明な異型細胞」とします。右(下)の細胞も正常の細胞に比べると核が大きくなっています。「お前はどこから来たのかい?」、、、そんな細胞なので、こちらも「意義不明な異型細胞」と私達は判断し、ASC-USと診断します。
ASC-USと診断された時は「HPV検査」で子宮頸がんと関係がある危険なHPV(ハイリスク型HPV)の感染があるかどうかを調べることになります。
ハイリスク型HPVは国際的に13種(16,18,31,33,35,45,52,58,39,51,56,59,68)が知られています。
HPV検査は基本的に13種の中のいずれかの感染があるかどうかを調べる検査で、感染している個々の型を調べる検査ではありません。測定機種によっては最も危険な16型、次いで危険な18型、その他に分けて報告されるものがあります。また、測定方法によっては検出感度が異なったり、検出できない型が存在することもあります。
さらに、私たちの経験からこれら13種以外の型(例えば82型など)の感染でもHSIL相当の異常な細胞が検出されていますので、HPV検査の信頼度はおおむね95%程と考えられています。
それでは半世紀以上もの長い間子宮頸がん検診に採用された細胞診検査の精度はどうなんでしょう?
日本の子宮頸がん検診の草分けのお一人でもある野田紀一郎先生は「細胞診で子宮頸がんは100%防げる」と言われておりましたが、私自身も全く同感でこの仕事を続けてまいりました。しかし、我が国の子宮頸がん検診の受診率は他の先進国に比べ最も低く、現在でも50%を超えていないのです。そして細胞診の検査精度については私が思っているのとは異なり、80%とも70%とも言われているのが現状です。このことについてはまた別の機会にお話ししたいと思いますが、とても残念な評価です。
いずれにしても、HPV検査と細胞診検査の精度は100%ではありませんので、私達は両方の検査を同時に実施する方法を提案しています。
セルフメディケーション、ASC-USと診断されたら「HPV検査」を受けましょう。
検診でASC-USと診断されたら、残った検体で「HPV検査」が出来ます。これは保険が適用されますので必ず受けましょう。保険の適用にはなりませんが、自己採取で「HPV検査」で子宮頸がんと関係がある危険なHPV(ハイリスク型HPV)の感染があるかどうかを調べることも可能ですす。
私達が実施した外国製のエヴァリンブラシという採取器具と加藤式器具の改良型(セルソフト)との比較調査ではHPVの検出感度はほとんど変わりません。