腟ガルドネラ菌とは何者か?

この写真は子宮頸がん細胞診検診に用いられる細胞診検査で行われるパパニコロウ染色標本です。
写真中央に紫色に染まるのが細菌性腟症のお主な原因となる腟ガルドネラ菌の塊です。この菌は腟内において固まりやすい特徴がありますので、腟ガルドネラ菌と決める一つの所見です。
この写真の中央やや右側の細胞を見てください。細胞質に細かな赤紫黄色に染まるのも腟ガルドネラ菌です。このように腟ガルドネラ菌が腟の細胞の表面に群がる現象(所見)はClue cell(クルーセル)といって腟ガルドネラ菌の特徴的所見です。腟の表面の細胞にはグリコーゲン豊富に有しているため、細胞に群がって栄養源にしているのかも知れません。
この写真の中央部分に赤紫色に染まる微細な菌も腟ガルドネラ菌です。集塊になったり、細胞の表面に群がったりするだけでなくこのようにばらけて出現することも多いのです。

診察の際に臭いが気になった女医さん

細菌性腟症の原因として真っ先に挙げられるのが腟ガルドネラ菌です。
私がこの菌に注目し始めたのは結構古く、1990年前半でした。
ある婦人科の女医さんが細胞診検査の依頼書に「におい」と記載されるのです。最初は特に気にならなかったのですが、それがかなりの頻度(10例に1例程)で続くため気になっていました。そんなある日、ひょっとして先生は細菌性腟症のことを私達に告げる意図があって書かれているのかと思い、直接先生のクリニックに訪問させて頂くことにしました。
先生の開口一番は「何かまずいことでもしましたか?」と言って、少し心配そうな顔でした。
「いやいや、先生が細胞診検査の依頼書に「におい」と記載されていることに大変興味をもち訪問して直接先生にその理由をお伺いしたかったのです。」と申し上げました。
女医さん「それがどうかしましたか? 父(産婦人科医)が診察の時に気づいたことは何でもメモしなさいといつも言っていましたので、臭いが気になった方には「におい」と書いただけです。そしてまた、「それがどうかしましたか?」と女医さん。「実は先生が「におい⊕」と書かれた患者さんの多くが細菌性腟症の疑いがあったので、直接お会いしてお話を伺いたかったのです。」
「エ? それ(細菌性腟症)って何ですか?」と先生。、、、、実はこの女医さん細菌性腟症についての認識は全くなかったのです。
細菌性腟症を知らない先生が気になる臭いと感じたのであれば、当人はもとよりパートナーはどう感じるのだろうか?
もしそれが不快なにおいなら、自分が細胞検査士として「細菌性腟症が疑われます」程度の報告をしてあげたほうが良いのではないのかと思い、この病気のことを色々調べました。もう昔のことではっきり覚えていませんが、ヨーロッパの研究者の一人が「男が黙って去っていく病気」と表現した記事を目にしました。
それ以来、細菌性腟症、腟ガルドネラ菌、魚臭帯下(魚が腐ったようなオリモノ)は私の仕事の一部になりました。

Clue cellの出現と臭いの関係を学会発表

以下の記事は椎名が「Clue cellの出現と臨床的悪臭度との関係ー産婦人科医に対するアンケート調査ー」と題したテーマで日本臨床細胞学会にて発表した内容の一部です。発表内容の抄録は(日臨細胞誌、第31巻第2号、1992年)

2968例の子宮頸部擦過標本を観察し、93例(3.13%)にClue cellが見られ、そのうちの66例(71%)についてアンケートに回答がありました。
Clue cellが見られた9例において医師または受診者が悪臭を訴え、Clue cellが少ないケースよりたくさん見られたケース、更にClue cellの出現に加え(最初の画像の様に)腟ガルドネラ菌が塊として観察されたケースでより悪臭を感じたという結果でした。
このことは、腟内で腟ガルドネラ菌の繁殖がより盛んな状態であるほど悪臭の度合いが高いという結果でした。
こんな研究をしていたのが今から30年も40年も前ですが、その後の研究でClue cellとしては観察できないケースでも(3番目の画像)嫌な臭いを訴える人が多いことも分かってきました。
これらのことから、嫌な臭いと感じることと腟ガルドネラ菌の関係は明らかと思われますが、嫌な臭いの度合いや、嫌な臭いと感じない(当人やパートナー)ケースが存在することも明らかになっています。
臭いに関しては細菌性腟症(主に腟ガルドネラ菌)だけでなく、トリコモナスやカンジダ、更にクラミジアや淋病等の感染症も関係していることを知っておきましょう。

臭いが気になったら先ず検査です

婦人科の先生方でも経験だけでは間違えます。
このことは何度も紹介していますが、「カンジダと思っても細菌性腟症」「トリコモナスがいますか?、、、と言って検査しても細菌性腟症」そんなことは良くありますが、「細菌性腟症ありますか?」と言って検査される先生は少ないようです。
なぜでしょうか?
トリコモナス感染は「黄色いおりものや痒い」、カンジダ症は「痒くて白っぽいおりものが沢山」淋菌やクラミジアは「性病であり不妊症の原因でおりものも多い」、、、これらの感染症に比べると早産や流産に関係があるとされていても、ちょっと臭いが気になる程度なら、、、という事なのでしょうか?
しかし、女性のQOLという観点からみると大切な問題なのではないでしょうか?

セルフメディケ-ション(自分の健康は自分で守る)
自分が嫌!と感じるのであれば、原因をはっきりさせて、先生に相談してみましょう。

こんなことも少なくないのです。

ヘルペス感染細胞はこのように見えます。
(この画像は実際ご紹介するケースとは異なるものです・)
突然ですが、昨日の出来事を追加します。
ある提出医の細胞診検査の依頼書に、「トリコモナスいますか? カンジダいますか?」との記載がありました。内診で先生は「ひどい腟炎だ!」、、、とっさにトリコモナスやカンジダを疑ったのでしょうね?
でも、よく探して見てもトリコモナスやカンジダはいません。ほんの少しだけ見つかったのは、、、「ヘルペス感染細胞」でした。
子宮頸がん検診に使われている検査の方法は細胞診です。私がこのブログで使用している顕微鏡画像の全てがパパニコロウ染色という方法で染めたものです。
子宮頸がんに関係のある細胞だけが見えるわけでなく、腟内の全ての情報が見えて来るのです。
アイラボの子宮頸がん検査では、そんな少しの変化でも見逃さず、おかしい???と思ったらら”病院に行かなくても、子宮頸がん検査を行った残りの検体を使って追加の検査をお勧めしています。

アイラボの婦人科細胞診は(医師が採取したものでも、自己採取した検体でも)全てLBC法(検体を保存液の中に洗い出し、顕微鏡で観察しやすい標本を作製していますが、残った検体はしばらくの期間保存し、追加検査に対応できるようにしています。)を採用しています。
検査のために何度も病院に行かなくてもよいようにね。

優しい夫からの一言

2022.9.30の記事 「旦那からの一言で命が」という記事を紹介しました。そのご夫婦とはコロナの影響で3年以上もお会いできなかったのですが、先月やっと会うことが出来ました。
『お前最近臭いが強くなったぞ、子宮頸がん検診を受けろよ』と旦那に言われた話です。もう十年以上前の話ですが、私がそのご夫婦のお宅に招待された折にたまたまお二人の前で「臭いの話」をしたことがきっかけだそうです。
そのご主人は昨年肺がんで他界されたと聞き、肺がんについての話もしておけばよかったと後悔しています。

いくらご夫婦であっても、『お前臭いよ』、、、とはなかなか言えないものです。
私が細菌性腟症の研究を始めた頃「男が黙って去っていく病気」と表現した研究者(確かヨーロッパの方であったと思います)がいましたが、面と向かってはなかなか言えないもんです。

でも最近、ご主人に臭いを指摘された方のお話を聞きました。
自分でもここ数年臭いが気になってはいたので、婦人科を受診していろいろ調べて頂いたのですが、結果は「なにも異常なし」であったそうです。

それでは結果を見ることにしましょう
腟内は白血球がほとんど見られず、とてもきれいな状態に見えます。
しかし、中央にはClue cell(クルーセル)が見られ、腟ガルドネラ菌が腟内を支配しています
細菌性腟症の典型的な所見ですが、細胞診の仕事をしていても、検査機関によっては「細菌性腟症が疑われます」との記載ができないところもあります。
従って、お医者さんや患者さんには伝わりませんので、たとえ検査をしても「特に異常はありません」という回答いなります。トリコモナスやカンジダが見られる場合はその旨を記載するのになぜ?、、、ですかね。

さらに拡大を上げてみましょう
乳酸菌は全くなく腟ガルドネラ菌だらけですね。
このように、典型的な細菌性腟症は白血球の増加(腟炎)は伴わないのです。
白血球が増えないと言うことは、腟ガルドネラ菌が増えても“異常事態との認識はない”のかも知れません。更には、乳酸菌がいなくなってしまったので“代わりに腟内を守っている”ようにも思います。

困るのは、“嫌な臭い”なのです。

子宮頸がんでなくてよかったですね。

いつも臭いの話をしますが、臭いの原因は子宮頸がんや細菌性腟症に限ったことではありません。
届いた検体のフタを開けた瞬間強烈な臭いに見舞われ、部屋中の窓を開けることもありますが、トリコモナスの感染であったり、カンジダ症であったり、淋病であったりもします。
なので、おかしいと思った時には先ずはチェックしてほしいのです。
アイラボが開業して始めて世に送り出したキットは『婦人科トータルセルフチェック』です。子宮頸がん、細菌性腟症、トリコモナス、淋菌、クラミジア、カンジダ、腟炎と言った臭いに関係のある全ての病気を丸ごと入れたキットです。

婦人科の敷居は高い、誰でもそうです。
私の恩師も婦人科医ですが、『椎名君、女性はお産以外に私達の所へは来たくないんだよ。それで子宮頸がんや不妊症など手遅れになってしまうんだよ。何とか自分で採取しても精度の高い検査を考えてくれよ』そんなことがあって、初めて世に出したのがこのキットです。

風邪は万病の元、(女性にとって)臭いは万病のサイン

セルフメディケーション!

病気の早期発見早期治療こそがすべての幸せに通じます。
パートナーの方に『優しく』伝えてあげましょう