十代でも油断禁物

子宮頸がんは、元を正せばHPVの感染です。
つまり、HPVは性交で感染することになります。
私が現役で学会活動をしていた頃、子宮頸がんの原因はHPVの感染なので、“子宮頸がんも元を正せば性感染症が原因”、、、と言ったような表現をすると、座長の先生から「子宮頸がんと性感染症を結びつけるのはよくありません」と言ったコメントとを頂いたことがあります。つまり、子宮頸がんの原因であるHPVはほとんどの女性が生涯一度は感染する可能性があるので、淋病やクラミジアなどの性感染症と一緒にしない方が良いという考えだったのかも知れません。また、子宮頸がんの原因が“性病”というイメージを植え付けると、“私は性病とは関係がない”、、、という理由で、子宮頸がん検診を受けない女性が増えるのではないかとの懸念もあったようです。

しかし、今となれば、国民に正確な知識を提供することの方が検診の受診率向上につながるのではないかと考え、今回のようなケースもあえて紹介させて頂きます。

当然のことですが、十代であっても性交経験がある人はHPVに感染してもおかしくないのです。
年齢に関係なく性交経験がある人は、その時点から検診を受けることが大切なんです。

早速写真を見てみましょうね。

冗談じゃないよ! これは大変!

全て同じ倍率の写真です。
上の左(一番上)の細胞は、細胞がオレンジ色の染まっています。HPVに感染した細胞の特徴の一つで、核も少し濃く染まっていますのでLSILに相当する所見かな?
上の右(上から2番目)の写真は、周りの細胞から比べても大きいし、核も驚くほど大きい。
やだな?、、、そんな感じの細胞です。
下の左(上から3番目)の写真も、大型でびっくりする細胞です。
この前の細胞も含め、普通じゃない。HSIL程度の異常を考えなくてはいけない細胞です。
そう言えば、出現している異常な細胞にコイロサイトーシスは見られません。HPVの16型の感染も考えておかなくてはいけないのかな?
下の右(上から4番目)は、小型の細胞です。細胞は小さいですが、前の大きな細胞と由来は同じような気がします。じっくり考えなくてはならないケースです。
とても難しい診断になりますが、私達はHSILで中等度異形成の存在を推定しました。
そして組織学的な精密検査とHPVのジェノタイピング検査(感染しているHPVの型を調べる検査)の必要性を伝えることにしました。
組織学的検査という新しい言葉が出てきましたので簡単に説明しておきます。
今回のように、子宮頸部の細胞診検査では、子宮の入り口付近(子宮膣部と頸部)の粘膜をこすって細胞をとってきます。そして、粘膜の表面がどんな細胞になっているかを見て、その病変を推定診断するのです。
組織検査は“おかしいと思われるいくつかの部分”から、組織(小さな肉片)を切り取ってきて、より正確にその病変を調べます。その結果によって、どのような治療をすべきかといった具合に治療方針が決められるのです。
検査精度を高めていくために、私達にもその結果は伝えていただけます。
子宮頸がんは性交経験がある人ならだれでも可能性はゼロでありません。
しかし、子宮頸がんから自分を守るための手立てはいくつもあります。
その一つは“HPVワクチンの接種”です。副反応の問題が大きく報じられた日本では大きな社会問題になり、せっかく始まった定期接種が中断してしまいました。日本だけが世界から取り残された感があります。でも、コロナの影響で、私達はかなり“ワクチン”という言葉に抵抗感がなくなってきたと思います。
HPVに感染してからではなく、より高い効果を得るためには感染する前の接種が大切です。
二番目は検診です。これも受けるか受けないかは自身で決めることですが、相変わらず検診受診率は低迷しています。しかし、最近HPV検査だけでも95%ほどの有効性が伝えられています。この方法なら自己採取でも医師採取とほぼ同等の検査精度が得られますので、気軽にトライできると思います。
この検査で大切なことは「陽性」になったら必ず細胞診検査を受けることです。
なぜなら、ハイリスク型HPVに感染していることが分かったわけですから、今どんな状況かをちゃんと調べておかなくては意味がないということです。NILMかも知れません、LSILかも知れません、はたまたHSILの状態かも知れないのです。
セルフメディケーション、自分の健康は自分で責任をもって守りましょう。