HPV45 56 58 59 66 型感染例に見られた細胞達

HPV感染は、決して一種類とは限りません。
すでにいろいろなところで紹介しているように、HPVはとても感染力が強いウイルスですが、HPVのウイルスが含まれた分泌物を皮膚や粘膜に軽く塗っても感染は成立しません。つまり、皮膚や粘膜にはそれぞれウイルスの侵入を防ぐための機能が備わっているのです。
それなのに、今回のケースのように、こんなにもたくさんのHPVが同時に検出されることがあるのでしょうか?
それは同時か複数回に渡って感染したかは別として決して少ないことではありません。
ウイルスは小さな傷口から体内に侵入します。それはHPVと限らずHIVも同じです。
なぜ性行為で感染するリスクが高いかと言えば、性器の場合は性交という物理的刺激(擦ること)によって双方の性器に目に見えない小さな傷ができるからです。傷そのものは見えないかもしれませんが、性交後にヒリヒリ感を経験した人は少なくないと思います。性器に比べ口腔や咽頭にHPVが付着しても粘膜が健康な状態であれば多くの場合感染は成立しないのです。しかし、風邪など、何らかの影響で粘膜に炎症が起こっている場合は感染の危険性が高くなりますので、オーラルセックスは安全とは言えないのです。

さて、前置きはこれ位にして標本を見てみましょう。

色々な細胞が出てきました

全て同じ倍率の写真です。
上の左(一番上)の細胞は、周りの細胞に比べ、ひときわ核が大きくなっています。この細胞を私たちが見た時には“ASC-US”または“LSIL”を考えます。“ASC-US”とする場合は「意義不明な異型細胞=HPV感染?」ということになりますが、“LSIL”とする場合は「HPVの感染がある」ということになります。“LSIL”と決めるには少し核の染まりが弱い(クロマチン量が乏しい)ようです。
上の右(上から2番目)の写真は周りの細胞に比べ数倍以上に大きくなっています。しかも、核は複数個あるように見えます。これら2つの所見はHPV感染に特徴的な所見ですので、細胞学的には“LSIL”と診断したい所見です。
中の左(上から3番目)の写真は、細胞がオレンジ色に染まっています。専門的には角化傾向にあると言います。そしてその細胞には3つの核が存在します。細胞が角化することは、HPVが自らの増殖に適した環境に変えようとするもので、これもHPV感染細胞の特徴の一つです。核が多くなる“多核化”もウイルスによるDNA合成阻害に伴うもので、HPV感染の特徴の一つです。
中の右(上から4番目)は、細胞の角化が強く、核もクロマチンの増加が見られ(やや濃く染まり)、カンジダやトリコモナスなどの感染に伴う変化とは異なります。軽度異型扁平上皮内病変“LSIL”相当の所見かと思われます。
最下段左(上から5番目)角化した細胞の隣に小型でN/Cが大きくなった細胞が見られます。由来ははっきりしませんが、これだけではなんとも決められません。
しかし、最下段右(上から6番目)の細胞は、小型でN/Cが大きくなっています。このような細胞がもっと多く見られれば積極的にHSIL“高度異型扁平上皮内病変”の中等度異形成を疑いますが、いかんせん少数ですのでASC-H“高度異型扁平上皮内病変の存在が否定できない”と診断しました。
5種類のHPVに感染していますが全体的に細胞の顔つきはおとなしく、「高度異型扁平上皮内病変の存在が否定できない」という診断に落ち着きました。
HPV遺伝子検査で感染は明らかになっても、現在“がん関連病変としての進行度”は分かりません。極端なことを言えば、NILM(異常な細胞は見られない)、ASC-US(由来がはっきりしない細胞が見られる、HPV感染があるかも?)、LSIL(HPV感染を伴う軽度異形成)、HSIL(前がん状態)、、、なのかが分からないということになります。
なので、HPV検査が「陽性」の場合は、細胞診で現在の状況を見極めることが大切になるのです。
自分の健康は自分で守る!セルフメディケーションを忘れないでください。
セルフメディケーション、自分の健康は自分で責任をもって守る。
医師採取による子宮頸がん検診が苦手な方でも「自己採取法によるHPV検査」なら気軽に受けられるでしょう。
もしその検査で「陽性」になったら、当然細胞診検査を受けて「今、自分はどんな状況か」を調べることが重要になります。子宮頸がん検診で重要なのは「子宮頸がんの原因になるHPVの感染があるかどうかを調べる」ことですが、「今、どんな細胞が出ているのか(子宮頸がん関連病変の進行度合い)を知ることこそが最も重要になるのです。
今回のケースは自己採取法です。
自己採取法の最大の弱点は子宮の入り口から少し奥に入った子宮頸部やさらに奥の子宮体部の癌を早期に発見することが出来ないことです。
むしろ自己採取における子宮頸がん細胞診検査はこのようながんの早期診断を目的としていませんので、HPV感染が明らかになった時点(HPV検査で陽性、または細胞診でLSIL以上の細胞が見られた時)で医師採取による子宮頸管を含めた精密検査を自分の意志で受けることの重要性を知ってほしいと思います。
更にもう一つ!
その精密検査で「異常なし」という結果が出ても安心してはいけません。残念なことですが検査は100%ではないのです。細胞を採取するのも、標本を作製するのも、顕微鏡で観察するのも、すべて人なのです。
一度の検査で安心することなく子宮頸がん検査は定期的に自分の意志で行うことが大切なのです。