HRTホルモン補充療法を行うと

HRTとは、ホルモン補充療法という意味です。詳しくは“HRT”で検索して頂ければたくさんの情報を得ることが出来ますのでそちらをご覧ください。
更年期になると卵巣からの女性ホルモン(エストロゲン)や黄体ホルモンの分泌は減少します。すると、のぼせや発汗、不眠や性交痛など、これまでにはなかった色々な不快な変化が起こります。減少したエストロゲンを投与することでこのような症状が改善されるようです。
エストロゲンは細胞を分化(成熟)させる働きもあるのです。
腟の粘膜は、重層扁平上皮という皮膚と同じとても丈夫な組織でできています。
それは性交にも耐えられるためで、うまくできてるのです。
粘膜の下から、基底細胞、旁基底細胞、中層細胞、表層細胞といった具合に何層にも重なっているのです。
なんだかお勉強のようになってしまいましたが、少し我慢してください。
エストロゲンという女性ホルモンは表層細胞まで細胞を成熟させて厚くします。
最も厚い時期は排卵直前です。つまり、妊娠に大切なこの時期は腟の粘膜も性交に最適な条件になっているのです。これも、神秘な世界でしょ。排卵が終わると今度は妊娠に備えるため、黄体が形成されます。黄体からは黄体ホルモンが分泌されますが、黄体ホルモンの影響下になると、腟の粘膜は一皮むけて中層細胞までしか成熟しないのです。当然、腟の防御機構は下がりますよね。でも、中層細胞にはたくさんグリコーゲンがあるんですよ。それを栄養源に乳酸菌が増えまくります。すると腟内には酸がつくられますので、いろいろな菌が膣内に入ってきても増えることが出来ないんですよ。これも神秘的でしょ。
長々と講義をしてきましたが、それには訳があるんですよ。
閉経して更年期になるとエストロゲンと黄体ホルモンが少なくなるわけですから、腟の粘膜は旁基底細胞までしか成熟しないのです。つまり、腟の粘膜はかなり薄くなってしまうのです。
そうなると、セックスをしても痛くなりますよね。出血もしやすくなりますよね。抵抗力がなくなりますので膣炎も起こしやすくなりますよね。
でもこれが正常なんですよ。
“HRT”ってすごいでしょ。
でも、良いことだけではないんですよ。
出産経験のない女性は乳がんや子宮体がんの危険性が高くなります。
それはなぜでしょう? 妊娠をするということは出産まで生理がないからです。
つまりその間、エストロゲンの危険にさらされることがないからだと考えられているのです。
ちゃんとそれなりの理由があるんですね。

腟内は二十歳の女性と変わらない

弱拡大の写真では、オレンジに染まる表層細胞が全体の90%程を占めています。
腟の粘膜が排卵の頃と同じ位厚くなっているため、守りも万全です。
このケースでは若干白血球(ゴマ粒能王に見える細胞)は増えていますが、比較的きれいな腟内です。
拡大を上げた細胞が典型的な表層細胞です。
細い針の様な乳酸菌も確認できます。
このケースの様に、ホルモン補充療法をされていることがお医者さんからの情報で分かる時は安心できますが、卵巣がんや子宮体がんでもこのようにホルモンの活性が高くなることがあります。
私達細胞検査士は、顕微鏡で観察しながらいろいろなことを考え、必要な情報を整理して診断に結びつける仕事です。
お医者さんからの情報が時に大変役に立つことがあります。
また自己採取などの郵送検査においても、皆様の情報は是非伝えて頂きたいものです。
今回はHRT、ホルモン補充療法と腟の細胞についてお話しさせて頂きました。
もう40年も前のことで、HRTが一般的でない頃の話ですが、60歳になっても腟の細胞はとても若々しいケースを経験しました。その時、産婦人科医で細胞診の専門医でもあった私の恩師にそのことを相談したところ、前で述べましたような卵巣がんや子宮体がんのような病気とは関係がないことでもホルモンの活性が高くなるお話をしてくれました。

恩師曰く「更年期になっても性生活を続けている女性は、比較的ホルモンの活性が高いことがあります。性交痛などの問題もありますが、そこはいろいろ工夫して続けて行ってほしいですね。」とおっしゃっていました。