細胞が巨大化する

生理がある女性(性成熟期の女性)の腟の表面は70ミクロン位の扁平上皮細胞でおおわれていますが、時々その倍以上にもなる大型の細胞に遭遇することがあります。
もうかなり昔になりますが、中央アジアの国にJICAから派遣された細胞検査士さんから、
「椎名さん、扁平上皮細胞が日本人に比べてみんな大きいんだけど、なぜなんでしょうか?」という国際電話が入りました。
「そちらの国では貧血の方は多いですか?」と質問すると、多いと思いますという返事が返ってきました。
「もしかすると、葉酸が欠乏しているのではないでしょうか?」とお答えしたことがありました。

今日はこんな細胞が飛び込んできました

あまり多くの細胞が見えませんが、左の弱拡大の写真でも中央のオレンジ色に染まる細胞がひときわ大きいのが分かります。拡大を上げると(右)、グリーンに染まる細胞が一般的な扁平上皮細胞でおよそ70ミクロン程です。オレンジ色の細胞はその3倍にもなろうかというほど巨細胞です。さらにその中央には核が2個見られます。
実はこの症例は軽度上皮内病変(LSIL)でフォローアップしているケースで、ハイリスク型HPVの感染があります。HPV感染の特徴はこれから紹介していきますが、1)コイロサイトーシス、2)細胞質が複数の色素で染まる(多染性)3)細胞質の角化傾向(オレンジ色に染まる傾向)、4)多核形成、それに5)細胞の巨大化などがあります。この細胞は3,4,5の所見を備えていますので、HPV感染がかなり疑えますね。
扁平上皮細胞が大きくなる原因を整理しておきましょう。
1) HPV感染、2)前に述べました葉酸欠乏症、3)放射線治療時がその代表です。
HPVは核の中で増殖(増えます)しますので、当然細胞が分裂するために必要なDNA合成を阻害します。細胞は分裂したいのに核の中でDNA合成が追い付かないため、細胞は待ちきれずどんどん大型化してしまうようです。葉酸もDNA合成に関係しますので欠乏状態では同じ現象が起こります。放射線もDNA合成を阻害します。
普通より細胞が大きくなるにもそれなりの訳があるんですね。