細菌性腟症と診断された1ヵ月後はどうなった?

8月6日の記事で紹介した「婦人科で治療後におりものと臭いが気になるようになった」方からの情報が届きました。
前回は生理が終わって間もなく採取しましたが、今回は生理の直前に採取して頂けました。
生理後は腟内を血液で洗い流した後ですので、乳酸菌は少ない可能性があるので今回は乳酸菌が最も多くなる生理直前に検査して頂きました。
それでは早速前回と比較してみましょう。

先ずは前回の写真をもう一度見てみましょう

先ずは、弱拡大で全体を見てみましょう。
標本背景に白血球の増加(腟炎)はなく、一見とてもきれいな腟内の様に思います。
しかし、赤の矢印の先には細胞の上に腟ガルドネラ菌が群がるクルーセルが見られます。

生理直前の細胞像で治療はしていません。

前回に比べ、白血球が多くなり、若干腟炎の様相を示しています。
また、クルーセルは見られますが、前回ほど腟ガルドネラ菌の群がり方が弱いようです。

拡大を上げた前回の写真です。

赤の太い矢印の先には紫色に染まる腟ガルドネラ菌が細胞にびっちり群がっています。
菌にとっての栄養源(グリコーゲン)の豊富な細胞に集まっているのでしょうか?
赤の細い矢印の先の様に細胞の周りにも腟ガルドネラ菌の集まりが見られます。
黄色の矢印の先にあるのが白血球ですが、典型的な細菌性腟症では増えません。

拡大を上げた今回の写真です。

一見して前回の生理直後に比べ、白血球が多くなり、腟ガルドネラ菌がクルーセルに集簇するだけでなく前面に広がっている感じに見られます。2枚とも細菌性腟症が疑われる所見に違いはありませんが、細胞像的にはかなり異なっています。白血球が増えていることも要因の一つかもしれませんが、今回の月経前採取例は黄体ホルモン優位な時期なのでホルモン環境の違いによる可能性も考えられます。

これは前回の単染色による腟ガルドネラ菌です

細胞の中に無数の菌が存在し、クルーセルの形態をとっています。

これは今回の単染色の所見です

この写真でも、クルーセルの形態を採るものより、標本全面に腟ガルドネラ菌が散らばっている様子が分かります。細胞融解によって栄養源(糖分)が膣全体に分散されたことによる変化なのでしょうか?

提供者はこれから細菌性腟症と対峙するようです

https://ja.thpanorama.com/articles/biologa/gardnerella-vaginalis-caractersticas-morfologa-ciclo-de-vida-contagio.html

細菌性腟症の原因についてネットで検索すると極めてたくさん出てきますが、今回情報を提供してくれた方は子宮頸部高度異形成のレーザー蒸散術後に症状が現れたとのことですので、抗生物質投与による正常細菌叢の乱れがそのまま継続している可能性が考えられます。また最近の電話相談でも、クラミジアの治療後にこれまで経験したことがないおりものの異常と異臭に悩まされている方がいます。

細菌性腟症の主な原因菌は腟ガルドネラ菌Gardnerella vaginalis です。この菌は腟内フローラの一員でもありますが、乳酸菌に対しては“ビルレント(敵対的)になることができて”増殖を抑制し、自らが腟内を支配することができることがあるようです。
健康な膣内は、乳酸菌の増殖により腟内の酸度はpH3.5程の強い酸性域にあるため、他の細菌が増殖できない環境を維持しています(膣の自浄作用)が、腟ガルドネラ菌等の嫌気性菌に支配されると腟内酸度が低下し、典型的な症状として灰白色のオリモノの増加と異臭(プトレシンやカダベリンの生成)を伴うようになります。※プトレシンはアミンの一種で腐肉の臭い成分で死臭の一因とも言われています。
そのような異臭の程度は様々で、ほとんど気にならない方から、電車で隣の席にいても分かるくらいまでさまざまです。時にはパートナーに不快感を与えてしまう事もありますので、ひどくなってしまったら治療の対象になるようです。

私自身はこれまで性行為で感染するものではないと考えていますが、私の友人の婦人科医は性感染症の位置づけで、治療しても夫婦間交渉ですぐ再発しまうといいます。

従って、治療に際しては、単にフラジールの1週間投与だけでなく、性感染症も考慮して生活環境も踏まえた入念な対策が必要かも知れません。